高校の学生寮や学校給食では、毎日多くの人へ同じ食事を提供します。
一度に数十人、数百人分を調理することもあるため、家庭料理とは異なる「大量調理」ならではの衛生管理が必要です。
2026年9月には、香川県丸亀市の高校の学生寮でウエルシュ菌による集団食中毒が発生しました。
寮で提供された食事を食べた68人のうち、男子生徒42人が下痢や腹痛などを発症しています。
では、学校給食や学生寮などの大量調理では、食中毒を防ぐためにどのような管理が行われているのでしょうか。
重要になるのが、食品の「温度」と「時間」です。
大量調理では温度と時間を数字で管理する
大量調理の衛生管理では、「十分に火を通す」「なるべく早く冷ます」といった感覚だけに頼るのではなく、中心温度や時間を確認することが重要です。
厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」では、HACCPの考え方に基づき、原材料の受け入れから調理、保存、提供まで重要な管理事項が示されています。
大きなポイントは次の4つです。
- 原材料の受け入れや下処理を適切に管理する
- 加熱する食品は中心まで十分に加熱する
- 加熱後の食品への二次汚染を防ぐ
- 調理後の食品を適切な温度で管理する
つまり、食中毒対策は「加熱」だけではありません。
食材が調理場へ入ってから、実際に食べる人へ提供されるまで、一連の工程を管理する必要があります。
加熱調理は中心部75℃で1分以上が基本
大量調理施設衛生管理マニュアルでは、加熱調理食品について、中心部が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上まで加熱されていることを確認するよう示されています。
二枚貝などノロウイルス汚染のおそれがある食品では、85~90℃で90秒間以上が目安です。
重要なのは、鍋やオーブンの設定温度ではなく「食品の中心温度」です。
外側が十分熱くなっていても、厚みのある肉や大きな食材では中心部まで熱が届いていない可能性があります。
そのため大量調理では、中心温度計などを使用して確認し、温度と時間を記録します。
加熱した食品への「二次汚染」も防ぐ
十分に加熱した食品でも、その後の扱いによって再び細菌が付着する可能性があります。
これを「二次汚染」といいます。
たとえば、生肉を扱った手や調理器具が、そのまま加熱済み食品に触れることは避けなければなりません。
大量調理では多くの食材や器具、人が関わるため、作業区域を分けることや、適切な手洗い、器具の洗浄・消毒なども重要になります。
「一度加熱したから安全」と考えず、提供するまで清潔な状態を維持する必要があります。
すぐ提供しない食品は10℃以下または65℃以上
加熱調理した食品をすぐに提供しない場合には、細菌を増殖させないための温度管理が必要です。
大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理後すぐに提供しない食品について、10℃以下または65℃以上で管理することが示されています。
| 工程 | 温度・時間管理の目安 |
|---|---|
| 一般的な加熱調理 | 中心部75℃で1分間以上、または同等以上 |
| 冷たい状態で保存 | 10℃以下 |
| 温かい状態で保存 | 65℃以上 |
| 冷却 | 30分以内に中心温度20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げるよう工夫 |
| 喫食 | 調理終了後から2時間以内が望ましい |
ポイントは、細菌が増殖しやすい中途半端な温度で長時間置かないことです。
冷却するときは「約20~50℃」を速く通過させる
加熱した料理を冷却して保存する場合には、冷まし方も重要です。
厚生労働省のマニュアルでは、食中毒菌が増殖しやすい約20~50℃の温度帯に食品がとどまる時間を、可能な限り短くすることが求められています。
そのため、冷却機を使用したり、清潔な容器へ小分けしたりして、食品の中心温度を速やかに下げます。
目安は、30分以内に中心温度を20℃付近まで、または60分以内に10℃付近まで下げることです。
さらに、冷却を開始した時刻と終了した時刻も記録します。
大量調理では、「冷蔵庫へ入れた」という事実だけでなく、実際に食品の中心温度がどのように下がったのかを見ることが重要です。
ウエルシュ菌では加熱後の管理が特に重要
ウエルシュ菌は、大量調理で特に注意したい食中毒菌のひとつです。
ウエルシュ菌の中には熱に強い芽胞を形成するものがあり、通常の加熱調理後も芽胞が生き残る場合があります。
さらに、ウエルシュ菌は酸素が少ない環境で増殖しやすいという特徴があります。
大鍋で調理された煮込み料理などがゆっくり冷えると、残った芽胞から菌が発育し、増殖する条件が整う可能性があります。
そのため、十分な加熱だけでなく、調理後の急速な冷却や適切な高温保持まで重要になります。
提供まで30分以上かかる場合にも管理が必要
大量調理では、料理が完成してすぐに全員が食べるとは限りません。
調理場から食堂へ運んだり、別の施設へ配送したりすることもあります。
大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理終了から提供まで30分以上かかる場合にも温度管理が求められています。
温かい料理は速やかに保温できる容器へ移し、冷たい状態で提供する食品などは10℃以下で保存します。
配送する場合にも、保冷または保温設備のある車両などを利用し、適切な温度を維持することが重要です。
調理から2時間以内の喫食が望ましい
厚生労働省のマニュアルでは、調理後の食品は調理終了から2時間以内に食べることが望ましいとされています。
これは「2時間までは何をしても安全」という意味ではありません。
提供までの間にも、食品に応じた適切な温度管理が必要です。
大量調理では、調理開始から提供までの作業工程を逆算し、料理が危険な温度帯に長時間置かれないよう計画することが重要になります。
記録を残すことも食中毒予防の一部
大量調理施設では、温度を測るだけでなく、その結果を記録することも重要です。
加熱温度、加熱時間、冷却開始時刻、冷却終了時刻、保存温度、提供時刻などを記録することで、決められた衛生管理が実際に行われたか確認できます。
もし問題が発生した場合にも、記録があればどの工程に問題がなかったか、どこを詳しく調査すべきかを検討する材料になります。
「測る」「記録する」「確認する」までが、温度管理です。
香川の高校寮で42人が発症
2026年9月、香川県丸亀市の高校の学生寮でウエルシュ菌による集団食中毒が発生しました。
寮で提供された食事を食べた68人のうち、男子生徒42人が下痢や腹痛などを発症しました。
患者からウエルシュ菌が検出され、香川県は9月16日に食中毒の発生を公表しています。
一方、今回の事例で具体的にどの食品や調理工程に問題があったのかは、現時点で明らかになっていません。
この記事で紹介した温度管理は、大量調理における一般的な食中毒予防の考え方です。
今回の高校寮で加熱不足や冷却不足があったと断定するものではありません。
まとめ
高校寮や学校給食など、一度に多くの食事を作る大量調理では、食品の温度と時間を具体的な数字で管理することが重要です。
加熱調理では中心部まで十分に加熱し、すぐに提供しない食品は適切な低温または高温で管理します。
冷却する場合には、細菌が増殖しやすい温度帯をできるだけ速く通過させることも大切です。
さらに、中心温度や時刻を測定して記録し、提供までの工程全体を管理します。
食中毒予防は「しっかり加熱する」というひとつの工程だけではありません。
食材の受け入れから調理、冷却、保存、配送、提供までをつなげて管理することが、大人数へ安全な食事を提供するための基本となります。

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