メイトー「なめらかプリン」などの自主回収について調べていると、
「保存品検査ではサルモネラ菌陰性」
という情報が出てきます。
「陰性ならサルモネラ菌はいなかったってこと?」
「それなら安全なのでは?」
「陰性なのに、どうして商品を回収するの?」
そんな疑問を持った人もいるでしょう。
今回のニュースを正しく理解するためには、微生物検査で使われる「陰性」という言葉がどこまでを意味するのかを知っておくことが重要です。
結論からいうと、
「陰性=世の中にある対象商品すべてに菌が1個も存在しないことを証明した」ではありません。
では、微生物検査の「陰性」とは何なのでしょうか。
食品メーカーで微生物検査に携わった経験も交えながら、できるだけ分かりやすく解説します。
今回のメイトープリンで「陰性」だったのは何?
まず今回の情報を整理してみましょう。
メイトー「なめらかプリン」などの自主回収では、対象商品に使用された原料の一部である殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出されたことが問題となりました。
一方、対象となった製品については加熱殺菌工程があり、保存されていた製品を検査した結果、サルモネラ菌は陰性とされています。
つまり、
| 調べたもの | 結果 |
|---|---|
| 原料の殺菌液全卵 | サルモネラ菌検出 |
| 完成品の保存品 | サルモネラ菌陰性 |
です。
同じものを2回検査して結果が変わったわけではありません。
原料と完成品という、別の段階の検体を調べた結果です。
そもそも微生物検査の「陰性」とは?
微生物検査でいう「陰性」は、日常会話でイメージする「絶対に存在しない」とは少し意味が違います。
サルモネラ試験の場合、決められた方法で試料を処理し、培養などの工程を経て判定します。
厚生労働省が定めるサルモネラ試験では、所定の培地上で集落が認められない場合にサルモネラ陰性と判定します。
したがって「陰性」を分かりやすく表現するなら、
「検査した検体について、定められた試験方法・条件では対象となる微生物が検出されなかった」
という意味です。
陰性=「菌が絶対にゼロ」とは限らない
ここがこの記事で最も大切なポイントです。
例えば、ある工場で1万個の商品を作ったとします。
その中から保存していた商品を検査し、サルモネラ菌が検出されなかったとします。
その検査から分かるのは、
「検査した検体では、サルモネラ菌が検出されなかった」
ということです。
1万個すべての商品を丸ごと微生物検査して、
「1万個のどこにも菌が1個も存在しません」
と直接確認したわけではありません。
だからといって、陰性という検査結果に意味がないわけではありません。
検査結果は食品の状態を評価するための非常に重要な情報です。
ただし、その結果から言える範囲を超えて解釈しないことが大切なのです。
なぜ全部の商品を検査しないの?
「それなら販売する商品を全部検査すればいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし食品の微生物検査では、食品を開封して検体を採取し、培地などを使って検査することがあります。
検査に使った商品は、そのまま販売することはできません。
つまり、大量生産した商品をすべて破壊して検査してしまえば、販売できる商品がなくなってしまいます。
そのため食品製造では、決められた方法で検体を採取して検査するとともに、
- 原料管理
- 製造工程の管理
- 加熱条件の管理
- 設備の洗浄・殺菌
- 二次汚染防止
- 温度管理
などを組み合わせて安全性を確保します。
「完成品検査だけですべてを保証する」のではなく、工程全体で問題を防ぐという考え方です。
重要なのが「サンプリング」という考え方
大量の食品の一部を取り出して検査する場合に重要になるのがサンプリングです。
どの検体を、いくつ、どのくらいの量で調べるのか。
これは微生物検査の結果を考えるうえで非常に重要です。
食品中の微生物は、必ずしもすべての場所にまったく同じ量で存在するとは限りません。
そのため、
「1個検査して陰性だった」
という情報と、
「決められたサンプリング計画に基づいて複数の検体を検査した」
という情報では、結果から評価できる範囲も変わります。
微生物学的な規格を考える際にも、検体数を含むサンプリング計画は重要な要素になります。
菌は食品の中に均一にいるとは限らない
もうひとつ、サンプリングを理解するうえで大切なのが微生物の分布です。
もし食品が微生物に汚染されていたとしても、
「どこを取っても同じ数の菌がいる」
とは限りません。
汚染の状況によっては、
ある部分では検出される
↓
別の部分では検出されない
ということもあり得ます。
そのため検査では、試料の採取方法や検体数、検体量、検査方法などが重要になります。
「陰性」という一言だけを見るのではなく、何をどのように検査した結果なのかを見る必要があります。
「検出されなかった」と「存在しない」は同じではない
これは微生物検査だけに限らず、さまざまな検査で重要な考え方です。
検査にはそれぞれ、
- 検査対象
- 検体量
- 試験方法
- 判定基準
があります。
その条件で対象が検出されなければ「陰性」と判定されます。
したがって、
「陰性だった」=「検査条件下で検出されなかった」
と理解すると分かりやすいでしょう。
「宇宙のどこを探しても菌が1個も存在しないことを証明した」という意味ではありません。
じゃあ「陰性」って信用できないの?
いいえ。ここも誤解しないようにしたいところです。
「陰性=絶対ゼロではない」と聞くと、
「じゃあ検査なんて意味がないのでは?」
と思うかもしれません。
そうではありません。
微生物検査では、決められた試験方法や判定基準に基づいて検査することで、
- 食品が規格に適合しているか
- 対象微生物が検出される状態ではないか
- 製造工程に問題が起きていないか
などを確認する重要な情報が得られます。
さらに検査そのものについても、正しく結果を得られているかを確認するための精度管理が行われます。
食品の安全性は、
工程管理+衛生管理+検査
を組み合わせて確保していくものです。
今回の「保存品陰性」は重要な情報
今回のメイトープリンについて、保存品検査でサルモネラ菌が陰性だったという結果は、もちろん重要な情報です。
さらに対象製品には加熱殺菌工程があり、今回の件に起因する健康被害は現時点で報告されていません。
これらは、完成した製品の健康危害を評価するうえで重要な材料になります。
しかし同時に、
使用原料の一部である殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出された
という事実もあります。
殺菌液卵にはサルモネラ属菌についての成分規格があるため、原料側の問題と完成品側の検査結果は分けて考える必要があります。
保存品が陰性なら回収対象の商品を食べてもいい?
これは「食べてもいい」という意味ではありません。
メーカーが自主回収を行っている対象商品を持っている場合は、メーカーの回収案内に従ってください。
「保存品が陰性だったらしいから、自分のプリンも大丈夫だろう」
と自己判断するための情報ではありません。
今回の保存品検査結果は、事案の状況を理解するための情報として見る必要があります。
元品質管理の視点|「陰性」の後ろに検査工程がある
私は以前、飲料メーカーの品質管理で微生物検査に携わっていました。
寒天培地などを使った検査をしていると、
最終的な結果だけなら、
「検出」
「不検出」
という非常に短い言葉になります。
でも、その結果が出るまでには、
- 検体を採取する
- 必要な量を処理する
- 培地などを使う
- 決められた条件で培養する
- 結果を確認する
といった工程があります。
つまり「陰性」という2文字の後ろには、何を、どのくらい、どんな方法で調べたのかという検査条件があります。
食品回収のニュースを見るときも、
「陽性だった!」
「陰性だった!」
だけで判断するのではなく、
「何を検査した結果なの?」
と一度考えるだけで、情報をかなり正確に読み取れるようになります。
今回の「原料陽性・保存品陰性」は矛盾しない
ここまでを今回の事案に戻して整理します。
まず原料段階では、
殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出
されています。
その原料を使ってプリンを製造し、その途中には加熱殺菌工程があります。
そして完成した製品の保存品では、
サルモネラ菌陰性
という結果でした。
つまり、
原料
↓
製造工程・加熱
↓
完成品
という異なる段階を検査しています。
したがって「原料陽性なのに完成品陰性」という結果そのものは矛盾ではありません。
サルモネラ陰性についてよくある質問
「サルモネラ陰性」とはどういう意味?
検査した検体について、定められた試験方法・条件でサルモネラ属菌が検出されず、陰性と判定されたことを意味します。
陰性なら菌は1個もいない?
製造された全商品・全量について菌が1個も存在しないことを直接証明したという意味ではありません。検査した検体について、所定の方法で検出されなかった結果です。
それなら陰性という結果は意味がない?
いいえ。食品の規格適合性や製造状態などを評価するうえで重要な情報です。ただし、検査結果から言える範囲を正しく理解する必要があります。
今回の保存品はサルモネラ陰性だった?
今回公表されている情報では、対象製品の保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
保存品が陰性なら対象商品を食べていい?
いいえ。メーカーが自主回収している対象商品を持っている場合は、最新の回収案内に従ってください。
まとめ|「陰性」を見たら「何を検査した結果?」まで確認しよう
メイトー「なめらかプリン」などの自主回収では、使用原料の一部である殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出された一方、完成した製品の保存品検査ではサルモネラ菌陰性とされています。
ここで重要なのが、
「陰性=すべての商品に菌が絶対に1個も存在しないことを証明」ではない
ということです。
微生物検査では、
- 何を検査したのか
- どのくらいの量を検査したのか
- どのような方法で検査したのか
- どんな判定基準なのか
を含めて結果を考える必要があります。
そして今回、陰性だったのは「保存品」です。
では、この保存品とはそもそも何なのでしょうか。
「売れ残った商品?」
「工場が念のため取っておいたプリン?」
「なぜ食品メーカーは商品を保存しておくの?」
次の記事では、食品事故や自主回収のニュースで登場する「保存品・保存検体」について詳しく解説します。

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