メイトー「なめらかプリン」などの自主回収をめぐり、気になる数字があります。
それが、
「90℃・50分の加熱殺菌」
です。
今回の自主回収では、使用原料の一部である「殺菌液全卵」からサルモネラ菌が検出されたことが問題となりました。
一方、対象となった製品については加熱殺菌工程があり、保存品の検査ではサルモネラ菌が陰性だったとされています。
そこで気になるのが、
「サルモネラ菌って加熱で死ぬの?」
「何℃まで加熱すればいい?」
「90℃で50分も加熱したなら大丈夫なのでは?」
「それでもなぜ自主回収するの?」
という疑問です。
サルモネラ属菌は加熱に弱く、十分な加熱は重要な食中毒予防策です。
ただし、食品工場で示される「90℃・50分」という製造条件と、家庭でよく聞く「中心温度75℃・1分以上」を、そのまま数字だけで比較するのは適切ではありません。
この記事では、サルモネラ菌と加熱の関係、そして今回公表された「90℃・50分」をどう考えればよいのかを解説します。
サルモネラ菌は加熱に弱い細菌
サルモネラ属菌は、動物の腸管や自然界などに広く存在する細菌です。
特に、
- 鶏卵やその加工品
- 鶏肉などの食肉
- 加熱不足の食品
- それらから二次汚染された食品
などが原因となり、食中毒を起こすことがあります。
一方で、サルモネラ属菌には「加熱に弱い」という特徴があります。
そのため食中毒予防では、食品を十分に加熱することが非常に重要です。
サルモネラ菌は何℃で死滅する?
厚生労働省は、家庭での食中毒予防について、
加熱する食品は中心部を75℃で1分間以上加熱すること
を目安として示しています。
サルモネラ属菌についても、肉や卵を十分に加熱し、75℃以上で1分以上加熱することが対策として示されています。
ここで大切なのは「中心部」という言葉です。
フライパンの温度が75℃を超えている。
オーブンを180℃に設定している。
鍋のお湯が沸騰している。
これだけでは、食品そのものの中心部が必要な温度に達したことを意味しません。
食品の厚みや大きさ、量などによって熱の伝わり方が変わるためです。
「75℃1分」になった瞬間、菌が一斉に死ぬわけではない
ここも少し誤解されやすいところです。
微生物の加熱殺菌は、
「74.9℃では全部生きていて、75℃になった瞬間に全部死ぬ」
というスイッチのような現象ではありません。
微生物は温度と時間の組み合わせによって減少していきます。
一般に温度が高くなれば、同じ微生物を減少させるために必要な時間は短くなります。
反対に、より低い温度でも、適切な時間を確保することで殺菌効果を得られる場合があります。
そのため食品工場では、
「何℃にしたか」だけでなく、「その温度でどのくらい処理したか」
という温度と時間の組み合わせを管理します。
では「90℃・50分」ならサルモネラ菌はどうなる?
今回の対象製品については、「90℃・50分」の加熱殺菌工程があるとされています。
数字だけを見ると、
「75℃・1分以上より、はるかに高温で長時間じゃない?」
と思いますよね。
サルモネラ属菌が加熱に弱いことを考えれば、適切な加熱工程はサルモネラ対策として非常に重要です。
そして今回、保存品検査ではサルモネラ菌が陰性だったとされています。
ただし、ここで「90℃50分だから完成品のすべての場所が90℃に50分間保たれた」と勝手に読み替えるのは避けるべきです。
食品工場で公表される加熱条件が、
- 加熱装置の設定温度なのか
- 庫内温度なのか
- 製品温度なのか
- 製品中心温度なのか
によって意味が変わるためです。
公表された数字以上のことを推測せず、「対象製品には90℃・50分の加熱殺菌工程がある」と捉えるのが適切でしょう。
プリンは熱の伝わり方も考える必要がある
家庭でハンバーグを加熱するときも、表面が熱くても中心部が十分に加熱されていないことがあります。
プリンでも同じように、食品内部へどのように熱が伝わるのかという考え方があります。
特に工場では一度に大量の商品を製造するため、
- 商品の大きさ
- 容器の形状
- 内容量
- 食品の性質
- 加熱設備
- 加熱時間
などを踏まえて加熱工程を設計します。
そのため、家庭向けの「75℃1分」と工場の「90℃50分」を単純に比較して、
「90÷75だから○倍安全」
といった考え方はできません。
サルモネラ菌は加熱すれば絶対安心?
加熱はサルモネラ対策として非常に有効です。
しかし食品衛生では、
「加熱工程さえあれば、ほかは何も管理しなくていい」
とは考えません。
例えば、
- 原材料の衛生管理
- 冷蔵などの温度管理
- 手指や器具の洗浄・消毒
- 生の原料と加熱済み食品を分ける
- 加熱後の二次汚染を防ぐ
といった管理も重要です。
厚生労働省もサルモネラ対策として、十分な加熱だけでなく、低温保存や二次汚染の防止などを挙げています。
今回サルモネラ菌が検出されたのは「プリン」ではなく原料
今回のメイトープリン自主回収では、この違いを何度でも確認しておきたいところです。
公表されている情報でサルモネラ菌が検出されたのは、
対象商品に使用された原料の一部である「殺菌液全卵」
です。
完成したプリンからサルモネラ菌が検出されたと公表されているわけではありません。
対象製品にはその後の加熱殺菌工程があり、保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
つまり、
殺菌液全卵
↓
原料からサルモネラ菌検出
↓
プリンの製造
↓
90℃・50分の加熱殺菌工程
↓
保存品検査ではサルモネラ菌陰性
という情報を分けて見る必要があります。
それでもなぜ自主回収するの?
ここまで読むと、
「サルモネラ菌は加熱に弱い」
「プリンには加熱工程がある」
「保存品検査も陰性」
という情報がそろいます。
すると当然、
「じゃあ、なぜ約1万9千個も自主回収するの?」
という疑問が出てきます。
その答えを理解するには、
「完成品で健康被害が起こる可能性」と「使用原料が食品衛生法上の規格に適合しているか」は別の問題
だと考える必要があります。
殺菌液卵には「サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性」という成分規格があります。
今回、その原料からサルモネラ菌が検出され、食品衛生法上の不適合が判明したことから対象商品が自主回収されています。
つまり、
「完成品からサルモネラ菌が出たから回収した」
という事案ではありません。
ここを混同すると、今回のニュースがかなり分かりにくくなります。
元品質管理の視点|「温度」だけではなく条件を見る
私は以前、飲料メーカーの品質管理で微生物検査に携わっていました。
食品の微生物管理を考えるとき、
「何℃なら菌が死ぬ?」
という疑問はとても分かりやすいのですが、実際には温度だけを見ることはできません。
確認したいのは、
- 何という微生物なのか
- どんな食品なのか
- どのくらいの温度なのか
- どのくらいの時間なのか
- 食品のどこの温度を測っているのか
- 加熱後に再汚染する可能性はないか
といった複数の条件です。
これは微生物検査でも似ています。
「陰性だった」という一言だけではなく、何を、どの方法で、どの検体について調べた結果なのかを見る必要があります。
今回の「90℃・50分」についても、数字だけを見て安全性を断定するのではなく、原料・加熱工程・製品検査・回収理由をそれぞれ分けて読むことが大切です。
家庭では「中心部75℃1分以上」をひとつの目安に
今回のプリンは食品工場で製造される商品ですが、家庭でのサルモネラ食中毒予防にも加熱は重要です。
厚生労働省では、家庭で加熱調理する食品について中心部75℃で1分間以上をひとつの目安としています。
特に肉や卵を扱う場合は、
- 十分に加熱する
- 生の肉や卵に触れた手を洗う
- 使用した器具を洗浄・消毒する
- 加熱済み食品へ二次汚染させない
- 適切な温度で保存する
といった基本的な対策を組み合わせることが大切です。
サルモネラ菌と加熱についてよくある質問
サルモネラ菌は熱に強い?弱い?
サルモネラ属菌は加熱に弱い細菌です。厚生労働省は食中毒予防として、肉や卵を75℃以上で1分以上十分に加熱することを示しています。
75℃になれば一瞬で全部死ぬ?
「75℃になった瞬間にすべての菌が一斉に死ぬ」という意味ではありません。微生物の加熱殺菌は温度と時間を組み合わせて考えます。家庭での目安としては中心部75℃で1分間以上が示されています。
90℃50分なら75℃1分より50倍安全?
そのような比較はできません。温度と時間だけでなく、食品の性質や測定している場所、加熱方法などが異なるためです。また、公表された「90℃・50分」が製品中心温度を意味するのかなど、公表情報以上のことを推測するべきではありません。
今回のプリンからサルモネラ菌が出た?
公表されている情報でサルモネラ菌が検出されたのは、使用原料の一部である殺菌液全卵です。対象製品の保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
保存品が陰性なら100%菌はいない?
「陰性」は、定められた検体・検査方法・条件で対象となる微生物が検出されなかったことを意味します。「すべての製品に菌が1個も存在しないことを証明した」という意味ではありません。この違いについては別の記事で詳しく解説します。
まとめ|サルモネラは加熱に弱い。でも「90℃50分」だけで回収の要否は決まらない
サルモネラ属菌は加熱に弱く、十分な加熱は重要な食中毒予防策です。
厚生労働省では、家庭での食中毒予防として食品の中心部を75℃で1分間以上加熱することを目安としています。
今回のメイトー「なめらかプリン」などについては、90℃・50分の加熱殺菌工程があり、保存品検査ではサルモネラ菌は陰性だったとされています。
一方で、サルモネラ菌が検出されたのは使用原料の一部である「殺菌液全卵」です。
殺菌液卵にはサルモネラ属菌についての成分規格があるため、原料がその規格に適合しているかという問題と、完成品にどのような加熱工程があるかという問題は分けて考える必要があります。
つまり、
「90℃で50分加熱しているなら、どうして回収する必要があるの?」
という疑問は、温度だけでは答えられません。
次の記事では今回の自主回収の核心ともいえる、「90℃・50分加熱し、保存品も陰性なのになぜ回収?」について、食品衛生法上の不適合と完成品の安全性の違いから詳しく解説します。

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