メイトー「なめらかプリン」などの自主回収で、聞き慣れない言葉が登場しました。
それが、
「殺菌液全卵(さっきんえきぜんらん)」
です。
「殺菌した卵?」
「液体の卵ってどういうこと?」
「殺菌してあるのに、どうしてサルモネラ菌が検出されたの?」
と疑問に思った人もいるでしょう。
家庭では卵を殻付きのまま使うことが多いですが、食品工場や飲食店などでは、殻を割った状態の「液卵」が原料として利用されています。
そして今回問題となった「殺菌液全卵」は、単に「卵を液体にしたもの」というだけではありません。
食品衛生上の規格が定められた食品です。
この記事では、殺菌液全卵とは何なのか、なぜ食品工場で使われるのか、そして今回なぜサルモネラ菌の検出が問題になったのかを分かりやすく解説します。
殺菌液全卵とは?
まず言葉を分解してみましょう。
殺菌+液+全卵
となります。
- 液卵:殻を割り、中身を取り出して液状にした卵
- 全卵:卵黄と卵白の両方を含むもの
- 殺菌:定められた方法で加熱などの殺菌処理を行うこと
つまり殺菌液全卵とは、簡単に表現すると、
「殻から取り出した卵黄と卵白を合わせ、殺菌処理した液状の卵」
です。
厚生労働省の食品の規格基準では、「殺菌液卵」は鶏の液卵を殺菌したものとされています。
家庭でボウルに卵を割って混ぜたものと見た目は似ていても、食品工場で製造される殺菌液卵には製造や衛生管理に関する基準があります。
液卵には「全卵」だけでなく卵黄・卵白もある
「液卵=全部混ぜた卵」と思うかもしれませんが、用途によってさまざまな形があります。
例えば、
- 液全卵
- 液卵黄
- 液卵白
などがあります。
プリンやお菓子、パン、総菜など、作る食品によって必要な卵の部分は違います。
今回のメイトー「なめらかプリン」などの回収で公表されているのは、その中でも卵黄と卵白を含む「殺菌液全卵」です。
なぜ食品工場では殻付き卵ではなく液卵を使うの?
家庭でプリンを作るなら、
「卵を2個割って……」
と作れます。
しかし食品工場では、1日に大量の商品を製造することがあります。
何百個、何千個という卵を一つずつ手作業で割り続ける方法では、効率だけでなく衛生管理や異物管理なども難しくなります。
液卵を原料として利用することで、
- 大量の卵を一定量ずつ扱いやすい
- 製造工程を効率化しやすい
- 卵殻が製造ラインへ持ち込まれる機会を減らせる
- 配合量を管理しやすい
- 製品品質を一定に保ちやすい
といったメリットがあります。
私自身、食品製造に関わった経験がありますが、大量生産では「家庭料理をそのまま巨大化すればいい」というわけではありません。
原料の受け入れから保管、計量、製造、加熱、包装まで、それぞれを管理できる仕組みが必要になります。
液卵も、その食品製造を支える原料のひとつです。
なぜ液卵を「殺菌」するの?
卵の衛生管理を考えるとき、重要になる微生物のひとつがサルモネラ属菌です。
サルモネラ属菌は食中毒の原因となる細菌で、卵やその加工品では特に注意すべき微生物のひとつです。
そのため、液卵には「殺菌液卵」と「未殺菌液卵」があります。
厚生労働省の規格基準では、
- 殺菌液卵:サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性
- 未殺菌液卵:細菌数が検体1gにつき1,000,000以下
という異なる成分規格が定められています。
つまり「殺菌液卵」と表示・流通するものについては、単に「一度温めてあります」という程度の意味ではありません。
サルモネラ属菌について明確な規格が設定されています。
殺菌液卵は「サルモネラ25g陰性」が規格
今回のメイトープリン自主回収を理解するうえで、ここは非常に重要です。
厚生労働省が定める食品の規格基準では、
殺菌液卵は、サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性でなければならない
とされています。
そのため、
「殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出された」
という今回の情報は、
単に「ちょっと菌が見つかった」という話ではありません。
殺菌液卵に求められている成分規格に適合しない状態が確認されたということになります。
これが今回「食品衛生法上の不適合」とされ、対象商品の自主回収につながった重要なポイントです。
「殺菌」と聞くと菌が完全にゼロになるイメージだけど?
ここで、
「殺菌したなら菌は全部いなくなるのでは?」
と思った人もいるでしょう。
食品衛生で使われる「殺菌」という言葉を、日常会話の「完全に無菌にする」というイメージだけで捉えると分かりにくくなります。
食品の殺菌工程では、対象となる食品の性質や微生物などを考え、一定の温度・時間などの条件によって微生物によるリスクを低減します。
そして液卵の場合には、殺菌工程だけでなく、
- 原料卵の管理
- 洗浄
- 割卵
- 殺菌
- 冷却
- 充填
- 保存
といった工程全体の衛生管理が重要になります。
厚生労働省の基準でも、殺菌後の液卵は直ちに8℃以下に冷却し、冷却後に容器包装へ充填する場合には、微生物汚染が起こらない方法で殺菌した容器包装に充填して直ちに密封することなどが定められています。
つまり、
「加熱殺菌したから、その後は何をしても大丈夫」ではありません。
殺菌後の取り扱いまで含めて管理する必要があります。
殺菌液全卵なのにサルモネラ菌が検出されることはある?
今回のニュースで、おそらく最も気になる部分でしょう。
「殺菌液全卵なのに、なぜサルモネラ菌が検出されたのか?」
ただし、今回の公表情報だけから具体的にどの工程で何が起こったのかを断定することはできません。
一般論として食品製造で微生物が検出された場合には、
- 原料そのものの状態
- 殺菌条件が適切に成立していたか
- 設備や製造工程の状態
- 殺菌後の二次汚染
- 充填・包装工程
- 保管温度や流通条件
など、さまざまな要素を確認して原因を調査します。
しかし、これはあくまで一般的な確認項目です。
今回の殺菌液全卵について、このどれかが原因だったと公表されているわけではありません。
原因について新たな公式発表が出るまでは、「殺菌に失敗した」「工場で二次汚染した」などと決めつけないことが大切です。
「殺菌液卵を使えば絶対安全」という意味でもない
殺菌液卵は、食品製造におけるサルモネラ対策として重要な原料です。
一方で、食品の安全管理はひとつの工程だけに任せるものではありません。
例えば食品工場では、
- 適切な原料を受け入れる
- 適切な温度で保管する
- 製造設備を衛生的に管理する
- 必要な加熱・殺菌工程を守る
- 殺菌後の再汚染を防ぐ
- 必要な検査を行う
など、複数の管理を積み重ねます。
「殺菌済みの原料を使っているから、あとは何もしなくていい」
という考え方ではないのです。
今回のプリン自体はどうだった?
ここでも「原料」と「完成品」を分ける必要があります。
今回、サルモネラ菌が検出されたと公表されているのは、対象商品に使用された原料の一部である殺菌液全卵です。
一方、メイトー「なめらかプリン」は卵などを使用し、蒸して固めるタイプの商品です。
今回の対象製品については製造工程で90℃・50分の加熱殺菌を行い、保存品検査ではサルモネラ菌が陰性だったとされています。
また、現時点で今回の件に起因する健康被害の報告はありません。
だからといって回収対象商品を食べてよいという意味ではありませんが、
「原料からサルモネラ菌が検出された」=「完成したプリンからサルモネラ菌が検出された」
ではないことは押さえておきたいポイントです。
元品質管理の視点|「殺菌済み」という言葉だけで判断しない
私は以前、飲料メーカーの品質管理で微生物検査に携わり、寒天培地などを使った検査を行っていました。
その経験から今回のニュースで特に伝えたいのが、
「殺菌済み」という言葉だけを見て、安全・危険を二択で考えないこと
です。
食品製造では、
原料を受け入れる
↓
保管する
↓
製造する
↓
加熱・殺菌する
↓
冷却する
↓
充填・包装する
↓
保存・出荷する
というように、多くの工程があります。
微生物管理も、その中の一か所だけを見るのではありません。
今回のようなニュースでは、
「殺菌したのに菌がいた!」
という部分だけが強く見えてしまいます。
しかし本来確認したいのは、
- 何から検出されたのか
- どの規格に適合しなかったのか
- 完成品にはどのような工程があるのか
- 製品検査ではどうだったのか
- 健康被害は確認されているのか
という一連の情報です。
食品の微生物検査は、「菌が出た」「出なかった」の一言だけでは読み解けません。
殺菌液全卵についてよくある質問
殺菌液全卵は生卵とは違う?
はい。殻付きの生卵をそのまま使うのではなく、割卵して卵黄と卵白を含む液状の原料にし、殺菌処理されたものです。
「全卵」は卵を丸ごと殻ごと使うという意味?
いいえ。「全卵」は卵黄と卵白の両方を使用するという意味で、殻を含むという意味ではありません。
殺菌液卵のサルモネラの基準は?
厚生労働省の食品の規格基準では、殺菌液卵はサルモネラ属菌が検体25gにつき陰性でなければならないとされています。
殺菌してあるのに菌が検出されたら?
殺菌液卵でサルモネラ属菌が検出された場合、成分規格に適合しないことになります。ただし、なぜ検出されたのかという具体的な原因については、殺菌工程や殺菌後の工程などを調査しなければ分かりません。
今回のプリンからサルモネラ菌が検出されたの?
公表されている情報で検出されたとされているのは、使用原料の一部である殺菌液全卵です。対象製品の保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
まとめ|殺菌液全卵にはサルモネラ属菌の明確な規格がある
殺菌液全卵とは、殻から取り出した卵黄と卵白を含む液卵を殺菌したものです。
食品工場などで大量の食品を製造する際に使いやすく、サルモネラ対策の面でも殺菌液卵は重要な原料です。
そして厚生労働省の規格基準では、
殺菌液卵は「サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性」でなければならない
とされています。
今回のメイトープリン自主回収では、使用原料の一部である殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出され、この規格に適合しないことが問題となりました。
ただし、
「殺菌液全卵から検出された」ことと「完成したプリンから検出された」ことは別です。
今回の対象製品では加熱殺菌工程があり、保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
では、そもそも殺菌してあるはずの液全卵から、なぜサルモネラ菌が検出される可能性があるのでしょうか。
次の記事では、殺菌工程だけでなく「殺菌後の二次汚染」なども含め、食品工場の微生物管理の仕組みから詳しく解説します。

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