メイトー「なめらかプリン」など3商品の自主回収で、気になった人も多いのではないでしょうか。
今回、対象商品に使用された原料の一部である「殺菌液全卵」からサルモネラ菌が検出されたことが、自主回収の理由となっています。
でも、ここでひとつ大きな疑問があります。
「殺菌した卵なのに、どうしてサルモネラ菌が出るの?」
ですよね。
「殺菌」という言葉だけを見ると、すべての菌が完全にいなくなった状態をイメージするかもしれません。
しかし食品工場の微生物管理は、それほど単純ではありません。
殺菌前の原料管理、殺菌時の温度と時間、殺菌後の冷却や充填、設備の衛生管理など、複数の工程を組み合わせて食品の安全性を管理しています。
この記事では、殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出される場合に、一般的にどのようなポイントが考えられるのかを解説します。
なお、今回のメイトー商品の原料について、サルモネラ菌が混入した具体的な原因が公表されているわけではありません。
この記事で紹介する内容は食品製造における一般的な可能性であり、今回の原因を断定するものではありません。
- そもそも「殺菌液全卵」とは?
- 殺菌液卵はサルモネラ属菌「25gで陰性」が必要
- 「殺菌=完全な無菌」ではない
- 殺菌液全卵はどのくらい加熱するの?
- では、なぜ殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出される可能性がある?
- 可能性① 殺菌時の温度や時間が適切だったか
- 可能性② 殺菌後に微生物が入り込む「二次汚染」
- 可能性③ 設備や器具の衛生状態
- 可能性④ 殺菌後の冷却・保管
- 可能性⑤ 検査で初めて問題が見つかることもある
- 今回の原因はどれなの?
- メイトーのプリン自体にも加熱工程がある
- じゃあ90℃・50分加熱しているのに、なぜ回収するの?
- 元品質管理の視点|微生物検査は「どこから出たか」が重要
- 殺菌液全卵とサルモネラについてよくある質問
- まとめ|「殺菌したのになぜ?」は工程全体を見ると理解しやすい
そもそも「殺菌液全卵」とは?
殺菌液全卵とは、簡単にいうと、
殻から取り出した卵黄と卵白を合わせ、殺菌処理した液状の卵
です。
家庭では殻付き卵を1個ずつ割って料理することが一般的ですが、食品工場では大量の卵を使用します。
そのため、あらかじめ割卵して液状にした「液卵」が、お菓子、パン、総菜などさまざまな食品の原料として利用されています。
そのうち殺菌処理されたものが「殺菌液卵」です。
殺菌液卵はサルモネラ属菌「25gで陰性」が必要
「殺菌」と名前についているだけではありません。
厚生労働省が定める食品の規格基準では、殺菌液卵について、
サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性でなければならない
と定められています。
つまり今回のように殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出された場合、殺菌液卵に求められている成分規格に適合しないことになります。
今回のメイトー「なめらかプリン」などの自主回収でも、使用原料の一部である殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出され、食品衛生法上の不適合が判明したことが回収理由とされています。
「殺菌=完全な無菌」ではない
まず整理したいのが、「殺菌」という言葉です。
日常会話では、
「殺菌した=菌が全部ゼロになった」
というイメージを持ちやすいかもしれません。
しかし食品製造では、定められた温度・時間などによって対象となる微生物を減少させ、安全性を確保するための処理として殺菌が行われます。
「殺菌」と「無菌」は同じ意味ではありません。
さらに食品の場合、殺菌工程が適切でも、その後の工程で再び微生物が入り込む可能性まで考えて管理しなければなりません。
そのため食品工場では、
殺菌工程だけを見るのではなく、その前後も含めて管理する
ことが重要になります。
殺菌液全卵はどのくらい加熱するの?
厚生労働省の食品の規格基準では、鶏の液卵を殺菌する際の温度と時間についても基準が設けられています。
例えば加糖・加塩していない全卵の場合、連続式で加熱殺菌するときは、
60℃で3分30秒以上
とされています。
バッチ式の場合は、
58℃で10分間以上
です。
また、これらとは異なる温度・時間を使用する場合でも、同等以上の殺菌効果があることを科学的データで確認した方法を使用できます。
「思ったより温度が低い」と感じた人もいるかもしれません。
しかし食品の殺菌は、単純に「高温にすればするほどよい」というものではありません。
卵は加熱すると凝固する食品です。
必要な殺菌効果を得ながら、原料として使用できる性質も保つ必要があります。
では、なぜ殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出される可能性がある?
殺菌液卵でサルモネラ菌が検出された場合、食品製造の一般論としてはいくつか確認すべきポイントがあります。
ただし繰り返しますが、以下は今回のメイトー商品の原因を示すものではありません。
原因調査では、このような可能性を一つずつ確認していくという意味で見てください。
可能性① 殺菌時の温度や時間が適切だったか
まず確認するのが、殺菌工程そのものです。
微生物を十分に減少させるためには、
- 必要な温度に達しているか
- 必要な時間が確保されているか
- 食品全体に必要な条件が成立しているか
などが重要になります。
厚生労働省も、殺菌液卵については自記温度計などによって規定された温度・時間で殺菌されていることを確認し、記録するよう示しています。
食品工場で「○℃で○分」という数字が重要なのはこのためです。
設定画面に数字を入力しただけではなく、実際に必要な殺菌条件が成立したことを確認する必要があります。
可能性② 殺菌後に微生物が入り込む「二次汚染」
もうひとつ重要なのが、殺菌した後です。
せっかく適切に殺菌した食品でも、その後に汚染された設備や器具などと接触すれば、再び微生物が入り込む可能性があります。
これを一般に二次汚染や交差汚染などと呼びます。
厚生労働省の殺菌液卵の製造基準でも、加熱殺菌後は直ちに8℃以下へ冷却し、冷却後に容器包装へ充填する場合には、微生物汚染が起こらない方法で殺菌した容器包装に充填して、直ちに密封することが定められています。
つまり法律上の製造基準そのものが、
「殺菌した後に再び汚染させないこと」
を重要視しているわけです。
可能性③ 設備や器具の衛生状態
食品工場では、原料がさまざまな設備を通ります。
液卵であれば、
- 配管
- タンク
- ポンプ
- 充填設備
- 接続部分
など、食品と接触する場所が数多くあります。
これらを適切に洗浄・殺菌し、衛生的な状態に保つことが重要です。
サルモネラ対策について厚生労働省のHACCP資料でも、加熱前の原料やそれを扱う器具と、加熱済み製品が交差汚染しないよう管理することの重要性が示されています。
食品工場では、
「食品を加熱したから終わり」
ではありません。
設備そのものの衛生管理も含めて微生物をコントロールします。
可能性④ 殺菌後の冷却・保管
微生物管理では温度も重要です。
厚生労働省の製造基準では、殺菌した鶏の液卵は加熱殺菌後ただちに8℃以下へ冷却することが定められています。
これは殺菌後の液卵を適切な状態で管理するためです。
殺菌、冷却、充填、密封、保管。
どこか一か所だけではなく、一連の工程として衛生管理を行います。
可能性⑤ 検査で初めて問題が見つかることもある
食品に微生物が存在していても、必ず見た目やにおいが変化するとは限りません。
だからこそ微生物検査があります。
厚生労働省は液卵製造業者について、定期的に自主検査を実施して規格への適合を確認し、その結果を記録することを示しています。
検査によって問題を発見すること自体は、食品安全管理の重要な役割のひとつです。
「検査で菌が見つかった」というニュースを見ると、検査そのものをネガティブに感じるかもしれません。
しかし検査は、目に見えない問題を発見し、必要な対応につなげるために行われています。
今回の原因はどれなの?
ここは非常に重要です。
現時点で公表されている情報からは、
今回使用された殺菌液全卵で、なぜサルモネラ菌が検出されたのか、その具体的な原因までは分かりません。
そのため、
- 殺菌温度が足りなかった
- 殺菌後に二次汚染した
- 設備に問題があった
- 温度管理に問題があった
などと断定することはできません。
これらはあくまで、食品工場で微生物が検出されたときに一般的に確認される可能性です。
原因について追加の公式発表があれば、その内容に基づいて判断する必要があります。
メイトーのプリン自体にも加熱工程がある
今回さらに混同しやすいのが、
「原料の殺菌」と「プリン製造時の加熱」
です。
サルモネラ菌が検出されたとされる殺菌液全卵は、プリンを作るための原料です。
そして、その原料を使用してプリンを製造する工程でも加熱があります。
今回の対象製品では90℃・50分の加熱殺菌が行われているとされています。
さらに保存品の検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
つまり今回の流れを簡単に整理すると、
殺菌液全卵
↓
原料からサルモネラ菌検出
↓
プリン製造工程
↓
90℃・50分の加熱殺菌
↓
保存品検査ではサルモネラ菌陰性
となります。
この流れを理解すると、
「原料からサルモネラ菌が検出された」と「完成したプリンからサルモネラ菌が検出された」は同じ意味ではない
ことが分かります。
じゃあ90℃・50分加熱しているのに、なぜ回収するの?
ここまで読むと、次の疑問が出てきます。
「プリンを90℃で50分も加熱して、保存品も陰性だったなら、どうして回収するの?」
今回のポイントは、
完成品の微生物検査結果と、使用した原料が食品衛生法上の規格に適合しているかは別の問題
だということです。
今回、殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出され、食品衛生法上の不適合が判明したことから対象商品が自主回収されています。
つまり、
「加熱後に菌が検出されたから回収」
という単純な構図ではありません。
この違いは次の記事で詳しく解説します。
元品質管理の視点|微生物検査は「どこから出たか」が重要
私は以前、飲料メーカーの品質管理で、寒天培地などを使用した微生物検査に携わっていました。
微生物に関するニュースを見るとき、個人的にとても重要だと思うのが、
「菌が出た」という言葉だけで判断しないこと
です。
まず確認したいのは、
- 何の検体を調べたのか
- 原料なのか完成品なのか
- どの工程のものなのか
- どの微生物が検出されたのか
- どの規格に対して不適合なのか
という情報です。
今回も、
「サルモネラ菌が検出された」
だけを切り取ると、完成したプリンから菌が検出されたように感じるかもしれません。
しかし実際に公表されているのは、使用原料の一部である殺菌液全卵からの検出です。
さらに製品には別の加熱工程があり、保存品検査という別の検査結果もあります。
原料・工程・完成品。
この3つを分けて見るだけでも、食品回収ニュースの読み方はかなり変わります。
殺菌液全卵とサルモネラについてよくある質問
殺菌液全卵ならサルモネラ菌は絶対にいない?
殺菌液卵には「サルモネラ属菌が検体25gにつき陰性」という成分規格があります。ただし「殺菌」という言葉そのものが、あらゆる微生物が完全にゼロになった無菌状態を意味するわけではありません。
殺菌した後に菌がつくことはある?
一般論としてはあり得ます。そのため殺菌液卵の製造基準では、殺菌後の冷却や充填についても微生物汚染を防ぐための基準が定められています。
今回の原因は二次汚染なの?
現時点で公表されている情報だけでは断定できません。二次汚染は一般的に考えられる確認事項のひとつですが、今回の原因だと決めつけることはできません。
殺菌液全卵は何℃で殺菌する?
加糖・加塩していない全卵の場合、厚生労働省の基準では連続式なら60℃で3分30秒以上、バッチ式なら58℃で10分間以上などの条件が定められています。同等以上の殺菌効果が科学的に確認された別の方法を使用することもできます。
今回のプリンからサルモネラ菌が検出された?
公表されている情報でサルモネラ菌が検出されたとされているのは、使用原料の一部である殺菌液全卵です。対象製品の保存品検査ではサルモネラ菌は陰性とされています。
まとめ|「殺菌したのになぜ?」は工程全体を見ると理解しやすい
殺菌液全卵からサルモネラ菌が検出されたと聞くと、
「殺菌したはずなのになぜ?」
と思うのは自然な疑問です。
しかし食品工場の微生物管理では、
- 原料管理
- 殺菌時の温度・時間
- 殺菌後の冷却
- 設備の衛生管理
- 二次汚染の防止
- 充填・密封
- 保管
- 微生物検査
などを組み合わせて管理しています。
厚生労働省の基準でも、殺菌液卵はサルモネラ属菌25g陰性という成分規格だけでなく、殺菌後の冷却や充填方法まで規定されています。
ただし今回、具体的にどの段階で問題が生じたのかは、現時点で公表されている情報だけでは分かりません。
原因が分からない段階で「殺菌失敗だった」「二次汚染だった」と断定しないことも大切です。
そして今回さらに興味深いのが、完成したプリンには90℃・50分という加熱工程があり、保存品検査でもサルモネラ菌は陰性だったのに自主回収されていること。
次の記事では、この「90℃・50分加熱したのになぜ回収?」という疑問を、食品衛生法上の規格と完成品の安全性を分けながら解説します。

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