麻布十番納涼まつりで販売された「冷やし蟹ラーメン」による大規模な食中毒。
2026年9月11日の新たな報道で、患者数が123人に増えたことに加え、もうひとつ重要な事実が明らかになりました。
それが、提供店で日々の衛生管理の実施状況を記録していなかったという問題です。
みなと保健所は、通常営業の段階から衛生管理計画に基づく記録が行われていなかったと説明しています。
「衛生管理表って、そもそも何?」
「料理をきちんと作っていれば、記録まで必要なの?」
と思う人もいるかもしれません。
しかし現在の飲食店では、HACCPに沿った衛生管理を行い、その実施状況を記録・保存することが求められています。
今回は、麻布十番の食中毒で新たに判明した「衛生管理記録なし」という問題と、飲食店ではどのような衛生管理を記録するのかを整理します。
麻布十番食中毒で「衛生管理記録なし」が判明
今回の食中毒では、麻布十番納涼まつりで販売された「冷やし蟹ラーメン」を食べた人から、下痢、腹痛、発熱などの症状が相次ぎました。
港区はサルモネラ属菌による食中毒と断定しています。
その後も調査が続き、最新の取材では食中毒患者として認定された人数が123人に増加。
さらに、提供した店舗の衛生管理についても新たな問題が明らかになりました。
みなと保健所長は取材に対し、衛生管理計画に基づいて店側が実施状況を記録する必要があるものの、通常の営業段階から行っていなかったと説明しています。
保健所が通常の店舗でこのような状況を確認すれば、すぐに指導の対象になるとも説明しています。
店側代表も「記録が必要という認識はあった」と説明
店側の代表も取材に応じています。
報道によると、衛生管理の記録を付ける必要があるという認識はあったものの、対応する事項が増える中で優先順位が下がり、自身の目視による確認のみになっていたという趣旨の説明をしています。
さらに、自身の衛生管理に対する意識の甘さがあったとも認めています。
ここで重要なのは、
「確認したつもり」と「衛生管理を実施し、その結果を記録すること」は同じではない
という点です。
飲食店ではHACCPに沿った衛生管理が必要
現在、原則としてすべての食品等事業者には「HACCPに沿った衛生管理」が求められています。
飲食店だから必ず大規模な食品工場と同じ複雑なHACCPシステムを構築しなければならない、という意味ではありません。
小規模な一般飲食店などでは、厚生労働省が確認した業界団体の手引書などを利用し、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行うことができます。
基本的な流れは、
- 衛生管理計画を作る
- 計画に基づいて衛生管理を実施する
- 実施した内容を記録・保存する
- 記録を振り返り、必要に応じて計画を見直す
というものです。
つまり、衛生管理は「気をつけていました」だけで完結するものではありません。
衛生管理では何を記録する?
小規模な一般飲食店向けのHACCPの手引書では、日々確認する一般的な衛生管理のポイントが示されています。
例えば、
- 原材料を受け入れたときの状態
- 冷蔵庫・冷凍庫の温度
- 交差汚染や二次汚染の防止
- 器具などの洗浄・消毒・殺菌
- トイレの洗浄・消毒
- 従業員の健康管理や衛生的な作業着
- 衛生的な手洗い
などがあります。
さらに、料理そのものについても、加熱する食品、加熱後に冷却して提供する食品など、調理方法に応じた重要な管理ポイントを確認します。
冷蔵庫の温度は「見た」だけではなく記録する
例えば冷蔵庫の温度管理。
毎日冷蔵庫を使っていても、
「たぶん冷えている」
「食材を触ったら冷たかった」
だけでは、温度管理の記録にはなりません。
決めたタイミングで温度を確認し、結果を記録します。
もし設定した管理基準から外れていれば、そのときにどのような対応をしたのかも重要になります。
こうした記録を積み重ねることで、普段の衛生管理が計画通り実施されているか確認できます。
調理器具の洗浄や手洗いも重要
食品を安全に提供するには、食品そのものだけを見ていても十分ではありません。
包丁、まな板、容器などの調理器具や、調理する人の手を介して細菌が別の食品へ移る「二次汚染」が起こる可能性があります。
そのため、器具の洗浄・消毒や衛生的な手洗いなどについても管理方法を決め、実施していく必要があります。
今回の保健所調査では、店舗内の拭き取り検査1検体から黄色ブドウ球菌も検出されています。
ただし、今回の食中毒そのものについて港区が原因と断定しているのはサルモネラ属菌です。
「黄色ブドウ球菌が検出された=今回の食中毒原因が黄色ブドウ球菌だった」ではありません。
検査結果は分けて考える必要があります。
なぜ衛生管理を「記録」する必要がある?
私は飲料メーカーの品質管理部門で微生物検査に携わっていましたが、食品衛生の現場では「やったかどうか」を記録として残すことには大きな意味があります。
人の記憶だけでは、数日前に何が起きていたのか正確に振り返ることは難しいからです。
記録があれば、
- いつ異常が起きたのか
- その日の管理状況はどうだったのか
- 普段と違う点はなかったか
- 異常を確認したとき、どのように対応したのか
などを後から確認できます。
厚生労働省の飲食店向け手引書でも、記録は食中毒の未然防止だけでなく、問題発生時の確認や衛生管理の改善につながるものとされています。
記録があれば食中毒を完全に防げるわけではない
一方で、ここは誤解しないようにしたいところです。
衛生管理表を書いてさえいれば、食中毒が絶対に起きないというわけではありません。
形だけチェックを付けても、実際の衛生管理ができていなければ意味がありません。
逆に、現場で衛生管理をしていたとしても、その結果が残っていなければ、後から実施状況を確認することが難しくなります。
大切なのは、
計画する→実行する→記録する→振り返る
という一連の流れです。
食中毒発生時の原因究明にも記録が役立つ
食中毒が発生すると、保健所は患者への聞き取りだけでなく、店舗の調理工程や食材の管理状況なども調査します。
そのとき日々の衛生管理記録が残っていれば、事故が起きる前後の状況を振り返るための資料になります。
例えば冷蔵設備に異常がなかったか、衛生管理上の問題が記録されていなかったかなどを確認する手掛かりになります。
今回の麻布十番の事案について、具体的にどの工程でサルモネラ属菌による汚染が発生したのかは、確認されている公表情報だけから断定することはできません。
衛生管理記録がなかったことだけを理由に「ここが食中毒の原因だった」と結論づけることもできません。
しかし、日々の衛生管理を実施し、その状況を記録すること自体は、飲食店に求められる基本的な食品衛生管理です。
まとめ|衛生管理は「やる」だけでなく「記録して振り返る」
麻布十番納涼まつりの冷やし蟹ラーメンによる食中毒では、最新の取材によって、提供店が通常営業時から日々の衛生管理の実施状況を記録していなかったことが明らかになりました。
現在の飲食店ではHACCPに沿った衛生管理が求められ、衛生管理計画を作成し、計画に沿って管理を実施し、その状況を記録・保存して振り返ることが必要です。
冷蔵庫などの温度、器具の洗浄・消毒、従業員の健康状態や手洗いなど、日々確認すべきポイントは数多くあります。
そして記録は単なる事務作業ではありません。
日々の管理状況を確認し、異常に気づき、問題が起きた場合には原因を調べるための手掛かりにもなります。
今回の食中毒の具体的な汚染経路については、衛生管理記録がなかったという事実だけから断定せず、今後も行政から公表される調査結果を確認していく必要があります。

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