2023年5月、愛媛県新居浜市の認可保育所で、生後8か月の男児が給食のリンゴを食べたあとに窒息状態となり、意識不明となった重大事故。
事故から約3年4か月が経過した2026年9月、この事故に大きな動きがありました。
当時の園長と、男児を担当していた保育士が、業務上過失致傷の疑いで書類送検されたのです。
男児は4歳になった現在も意識不明の状態が続いています。
なぜ、生後8か月の赤ちゃんが食べる給食で、このような事故が起きたのでしょうか。
新居浜市が設置した事故検証委員会の報告書には、単に「リンゴを喉に詰まらせた」という一言では説明できない、複数の問題点が記録されています。
事故当日から今回の書類送検まで、何が起きていたのかを整理します。
事故が起きたのは2023年5月16日
事故が発生したのは2023年5月16日。
場所は愛媛県新居浜市の認可保育所「新居浜上部のぞみ保育園」です。
新居浜市の事故検証委員会によると、事故が起きたのは午前10時30分ごろ。
当時生後8か月だった男児が、園で離乳食を食べている最中に窒息状態となりました。
救急搬送された時点では意識不明、心肺停止状態でした。
病院で心拍は回復しましたが、事故から3年以上が経過した現在も意識不明の状態が続いています。
給食では「刻んだ生のリンゴ」が提供されていた
事故当日、男児には離乳食として「刻んだ生のリンゴ」が提供されていました。
新居浜市の検証報告書では、病院搬送後の気管挿管時に分泌物や異物は吸引されなかったとされています。
そのため、事故の原因となった異物そのものが直接確認されたわけではありません。
一方、保育士などの証言や医療機関の報告などをもとに検証した結果、事故検証委員会は、刻んだ生のリンゴが関係した窒息の可能性が高いと判断しています。
報告書では、男児が泣いて息を吸った瞬間に、刻んだ生のリンゴが気道を閉塞し、窒息につながった可能性が高いとしています。
つまり、「リンゴが原因だった」と単純に断定するのではなく、当時の状況などを総合的に検証した結果として、リンゴによる窒息の可能性が高いと判断されたということです。
検証委員会が指摘したのはリンゴだけではなかった
この事故で重要なのは、問題が「生のリンゴを出したこと」だけに限定されていない点です。
新居浜市の事故検証委員会は、複数の問題が重なった結果、重大事故につながったとしています。
そのひとつが、子どもの成長や発達に応じた離乳食の提供です。
事故当時、男児を含む離乳食中期の園児に対して、刻んだ生のリンゴが提供されていました。
検証報告書では、これについて国のガイドラインに沿った提供が行われていなかったと指摘しています。
「生のリンゴには誤嚥リスクがある」という認識も不足
検証報告書では、職員の認識についても問題点が挙げられています。
国のガイドラインの内容が職員に十分浸透しておらず、生のリンゴを提供することが重大な誤嚥リスクにつながる可能性について、認識が低かったとされています。
さらに、離乳食の調理方法について標準化されたマニュアルも整備されていませんでした。
乳幼児の食事では、「このくらいなら食べられるだろう」という経験だけに頼るのではなく、発達段階や食材の性質に応じた共通の基準を施設全体で持つことが重要です。
家庭での離乳食状況が調理現場まで十分伝わっていなかった
もうひとつ、検証報告書で指摘されたのが情報共有です。
離乳食は、同じ月齢だからといって全員が同じ段階とは限りません。
家庭でどのような食材を食べているのか。
どのくらいの固さや大きさなら食べられるのか。
どこまで離乳食が進んでいるのか。
こうした情報を保護者から聞き取り、調理担当者や保育担当者まで共有する必要があります。
しかし検証報告書では、保護者から聞き取った家庭での離乳食の状況が、調理現場へ十分に伝わっていなかったことが指摘されています。
聞き取る内容自体も統一されておらず、離乳食の提供段階を決める明確なプロセスも定められていませんでした。
8か月だから「この形態」と月齢だけで決めることはできない
離乳食を考えるうえで重要なのが、月齢と発達は必ずしも完全には一致しないということです。
同じ生後8か月でも、口の動きや咀嚼・嚥下機能、離乳食の経験には個人差があります。
そのため、「8か月だからこの大きさ」「離乳食中期だからこの食材」と機械的に決めるだけでは、安全な給食提供にはつながりません。
家庭での摂取状況と園での食事の様子を確認しながら、その子の発達に合った食形態を選択することが必要です。
事故を受けて新居浜市が検証委員会を設置
新居浜市は事故の原因を検証し、再発防止策を検討するため、事故検証委員会を設置しました。
委員会は2023年7月から2024年3月まで複数回開催され、2024年3月25日に検証報告書が公表されています。
報告書では、
- 子どもの発達に応じた離乳食提供
- 離乳食に関する保護者からの聞き取り
- 職員間の情報共有
- 食形態を決定する仕組み
- 離乳食調理の標準化
- 誤嚥リスクに関する職員の知識
など、事故を一つの原因だけで考えない視点が示されています。
事故から約3年4か月後、元園長と担当保育士を書類送検
そして2026年9月16日、事故は新たな段階に入りました。
新居浜署は、事故当時の園長と男児を担当していた保育士を、業務上過失致傷の疑いで松山地検西条支部へ書類送検しました。
報道によると、男児に給食を与える際、必要な注意を怠った疑いが持たれています。
ただし、「書類送検された」ということは、有罪が確定したという意味ではありません。
警察から検察へ事件の書類や証拠などが送られ、今後、検察が捜査内容などを踏まえて刑事処分を判断していくことになります。
新居浜署は、今回の書類送検について処分意見を明らかにしていません。
男児は4歳になった現在も意識不明
事故当時、生後8か月だった男児は現在4歳です。
最新報道によると、現在も意識不明で人工呼吸器を使用し、両親が24時間介護を続けています。
事故から約3年4か月。
書類送検によって捜査は一つの節目を迎えましたが、家族の生活が事故前に戻ったわけではありません。
父親は報道各社の取材に対し、事故防止のために組織全体を見直してほしいという趣旨の思いを語っています。
園を運営する法人もコメント
新居浜上部のぞみ保育園を運営する社会福祉法人新居浜社会福祉事業協会は、当時の園長と担当保育士が書類送検されたことを認めています。
法人は男児と家族に対して改めて謝罪し、同様の事故を二度と起こさないよう再発防止に努めるとしています。
この事故から考えたい「食べられる」と「安全に食べられる」の違い
離乳食では、つい「その食材を食べたことがあるか」「家庭で食べているか」に目が向きがちです。
しかし、食べた経験があることと、どのような状態でも安全に食べられることは同じではありません。
同じリンゴでも、生なのか加熱されているのか。
どの程度の固さなのか。
どのような大きさや形なのか。
一口量はどのくらいなのか。
そして、その子自身の咀嚼・嚥下機能がどこまで発達しているのか。
さらに、食べている間に大人がどのように見守っているのか。
安全性は一つの条件だけで決まるものではありません。
私は栄養士として給食に関わる一方、子育て支援員として0歳児の離乳食介助にも関わっています。
実際の食事場面では、月齢だけを見るのではなく、口の動き、一口量、飲み込めているか、次の一口へ進んでよいかなど、その子の食べる様子を確認することが欠かせません。
献立や調理だけで完結するのではなく、「食べるところまで」が給食の安全だと感じます。
まとめ|3年前の事故は今も終わっていない
2023年5月16日、新居浜市の認可保育所で、当時生後8か月だった男児が離乳食を食べている最中に窒息状態となりました。
事故検証委員会は、刻んだ生のリンゴによる窒息の可能性が高いとし、離乳食の提供方法や誤嚥リスクへの認識不足など、複数の問題が重なって事故につながったとしています。
そして事故から約3年4か月後の2026年9月16日、当時の園長と担当保育士が業務上過失致傷の疑いで書類送検されました。
一方、男児は4歳になった現在も意識不明の状態が続いています。
今回の事故を「リンゴを詰まらせた事故」だけで終わらせず、なぜその食形態が選ばれたのか、家庭と園の情報は共有されていたのか、職員がリスクを理解していたのか、食事中の安全を施設全体でどう守るのか。
一つひとつ検証し、次の事故を防ぐ仕組みにつなげることが重要です。


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