腸管出血性大腸菌感染症の特徴的な症状として知られている「血便」。
なぜ、O157などの腸管出血性大腸菌に感染すると、単なる下痢ではなく血便が出ることがあるのでしょうか。
その重要な鍵となるのが、腸管出血性大腸菌が産生する「ベロ毒素」です。
ベロ毒素は「志賀毒素群毒素」とも呼ばれ、腸管に障害を起こすだけでなく、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重い合併症にも関係します。
2026年9月には滋賀県で腸管出血性大腸菌感染症多発警報が発令され、県もベロ毒素やHUSについて注意を呼びかけています。
今回は、腸管出血性大腸菌が作るベロ毒素とは何なのか、なぜ激しい腹痛や血便につながるのかを栄養士目線で整理します。
- 腸管出血性大腸菌の大きな特徴が「ベロ毒素」
- ベロ毒素=O157だけの毒素ではない
- ベロ毒素は「志賀毒素群毒素」とも呼ばれる
- ベロ毒素にはVT1とVT2がある
- 「VT1とVT2の両方を持っていれば必ず重症」ではない
- 腸管出血性大腸菌に感染すると最初から血便になる?
- 水様便から血便へ変化することがある
- なぜ血便が出るの?
- 血便が出れば必ずO157?
- 高熱がなくても注意が必要
- ベロ毒素は腸だけの問題ではない
- HUSとは?
- 腸の症状が始まったあとにも注意
- 下痢が落ち着いてきても油断しない
- HUSの初期にはどんな変化がある?
- 特に子どもや高齢者は注意
- 症状が軽い人や無症状の人もいる
- 滋賀県の警報でも無症状病原体保有者を確認
- ベロ毒素はどうやって検査する?
- 「大腸菌が出た」だけでは情報が足りない
- 微生物検査では「何が検出されたか」を細かく見る
- ベロ毒素を食品中の毒素と単純に考えない
- 少ない菌数でも感染する可能性がある
- 予防は「ベロ毒素を消す」ではなく菌を体内へ入れない
- 激しい腹痛や血便があるときは医療機関へ
- まとめ
腸管出血性大腸菌の大きな特徴が「ベロ毒素」
大腸菌にはさまざまな種類があります。
人や動物の腸管に存在する大腸菌の多くは病気を起こしません。
一方、一部には人に下痢などの症状を起こす病原大腸菌があります。
その中でも、強い毒性を持つベロ毒素を産生し、出血性大腸炎やHUSなどを起こすものが腸管出血性大腸菌です。
ベロ毒素=O157だけの毒素ではない
「ベロ毒素」と聞くとO157を思い浮かべるかもしれません。
しかし、腸管出血性大腸菌にはO157以外にもO26やO111、O145など複数の血清型があります。
つまり、
「ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌=O157だけ」ではありません。
O157は、腸管出血性大腸菌の代表的な血清型の一つです。
ベロ毒素は「志賀毒素群毒素」とも呼ばれる
ベロ毒素は「志賀毒素群毒素」とも呼ばれています。
英語ではShiga toxinと呼ばれ、「Stx」と表記されることもあります。
資料によって「ベロ毒素」「志賀毒素」「VT」「Stx」といった表記が登場するため、違う毒素のように感じるかもしれません。
一般向けに理解するときには、腸管出血性大腸菌が産生する重要な毒素を示す言葉として整理すると分かりやすいでしょう。
ベロ毒素にはVT1とVT2がある
ベロ毒素には、大きく分けて1型(VT1)と2型(VT2)があり、それぞれに亜型があります。
滋賀県の今回の警報資料でも、
- VT1:赤痢菌が産生する志賀毒素と同じ型
- VT2:VT1とは異なる構造を持つ型
と説明されています。
腸管出血性大腸菌によっては、このうち一つ、または複数の毒素を産生します。
「VT1とVT2の両方を持っていれば必ず重症」ではない
毒素の型は腸管出血性大腸菌を調べるうえで重要な情報です。
しかし、一般の人が検査結果を見て「VT2だから必ず重症になる」「二つ持っているから必ずHUSになる」などと判断することはできません。
症状や重症度は、菌側の特徴だけでなく、感染した人の状態などさまざまな要因が関係します。
腸管出血性大腸菌に感染すると最初から血便になる?
必ずしも最初から血便になるわけではありません。
腸管出血性大腸菌感染症では、おおよそ3〜8日の潜伏期間を経たあと、頻回の水様便から発症することがあります。
その後、激しい腹痛を伴い、著しい血便がみられることがあります。
水様便から血便へ変化することがある
最初は「普通の下痢かな」と感じるような水様便でも、その後症状が変化することがあります。
特に、
- 下痢が続く
- 激しい腹痛が出てくる
- 便に血が混じる
といった変化には注意が必要です。
なぜ血便が出るの?
腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素などによって大腸の粘膜が障害され、強い炎症が起こることで、出血を伴う大腸炎につながることがあります。
これが「出血性大腸炎」です。
その結果、激しい腹痛とともに血便がみられることがあります。
血便が出れば必ずO157?
いいえ。
血便の原因は腸管出血性大腸菌感染症だけではありません。
ほかの感染症や腸の病気などでも血便がみられることがあります。
そのため、便の見た目だけで「O157だ」と判断することはできません。
原因を確認するには医療機関での診察や検査が必要です。
高熱がなくても注意が必要
食中毒や感染症というと、高熱が出るイメージがあるかもしれません。
しかし、腸管出血性大腸菌感染症では発熱がみられても一過性の場合があります。
そのため、
「熱がないから重い感染症ではない」
と判断することはできません。
激しい腹痛や血便など、消化器症状の変化にも注意する必要があります。
ベロ毒素は腸だけの問題ではない
腸管出血性大腸菌感染症でベロ毒素が重要なのは、腸炎を起こすからだけではありません。
ベロ毒素は体内でさまざまな障害を起こし、HUSなどの全身性の重い合併症につながることがあります。
HUSとは?
HUSは「溶血性尿毒症症候群」の略です。
代表的には、
- 溶血性貧血
- 血小板減少
- 腎機能障害
などを特徴とする重い合併症です。
脳症を伴うこともあります。
腸の症状が始まったあとにも注意
腸管出血性大腸菌感染症では、「下痢が始まった日」だけに注意すればよいわけではありません。
滋賀県や厚生労働省によると、症状がある人の一部では、下痢などの初発症状から数日〜2週間以内にHUSや脳症などを発症することがあります。
特に多いとされるのが、初発症状から5〜7日後です。
下痢が落ち着いてきても油断しない
下痢の回数が減ると「もう治った」と思うかもしれません。
しかし、腸管出血性大腸菌感染症と診断されている場合には、その後の全身状態にも注意する必要があります。
医師から経過観察について指示を受けている場合には、それに従いましょう。
HUSの初期にはどんな変化がある?
厚生労働省によると、HUSの初期には、
- 顔色が悪い
- 尿量が減る
- むくみ
- 意識状態の変化
などがみられることがあります。
こうした症状がある場合には、速やかに医療機関へ相談する必要があります。
特に子どもや高齢者は注意
HUSは子どもや高齢者で起こりやすいとされています。
特に小さな子どもでは、「尿が少ない」「顔色が悪い」といった変化を本人がうまく伝えられないことがあります。
便だけでなく、尿量や顔色、元気の有無など全身状態を見ることが大切です。
症状が軽い人や無症状の人もいる
一方で、腸管出血性大腸菌に感染した人すべてが血便やHUSを起こすわけではありません。
全く症状が出ない人もいれば、軽い腹痛や下痢だけで終わる人もいます。
症状がない人でも菌を保有していることがあり、「無症状病原体保有者」として確認されることがあります。
滋賀県の警報でも無症状病原体保有者を確認
2026年9月に滋賀県で発令された腸管出血性大腸菌感染症多発警報でも、患者だけでなく無症状病原体保有者が確認されています。
つまり、「血便が出る病気」という特徴だけで感染者を見つけられるわけではありません。
ベロ毒素はどうやって検査する?
腸管出血性大腸菌感染症が疑われる場合には、便などを用いて検査が行われます。
便から大腸菌が検出された場合には、菌の血清型やベロ毒素を産生する能力などを調べることがあります。
こうした検査によって、O157やO26、O111などの分類や、ベロ毒素産生性を確認していきます。
「大腸菌が出た」だけでは情報が足りない
大腸菌そのものは、人や動物の腸管にも存在します。
そのため、単に「大腸菌が検出された」という情報だけでは、腸管出血性大腸菌なのか判断できません。
どのような大腸菌なのか、さらに血清型やベロ毒素産生性などを調べることが重要です。
微生物検査では「何が検出されたか」を細かく見る
食中毒や感染症の検査結果を見るときには、「菌がいた・いなかった」だけではなく、その菌がどのような性質を持っているのかを見ることが重要です。
同じ「大腸菌」という名前でも、病原性を持たないものから、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌まで性質は大きく異なります。
検査結果を読むときには、菌名だけでなく、血清型や毒素などの情報まで整理する必要があります。
ベロ毒素を食品中の毒素と単純に考えない
食中毒の中には、食品中ですでに作られた毒素を食べることで発症するタイプもあります。
しかし、腸管出血性大腸菌感染症について「食品の中にベロ毒素があって、それを食べる病気」と単純に考えるのは適切ではありません。
基本的には、腸管出血性大腸菌そのものが口から体内へ入り、腸管内で感染することが問題になります。
だからこそ、食品に菌を付けないこと、十分に加熱すること、便を介した二次感染を防ぐことが重要です。
少ない菌数でも感染する可能性がある
厚生労働省は、腸管出血性大腸菌は100個程度の少ない菌数でも感染すると説明しています。
大量に菌が付着していなければ安全というわけではありません。
生肉から調理済み食品への二次汚染や、患者の便を介した家庭内感染などにも注意が必要です。
予防は「ベロ毒素を消す」ではなく菌を体内へ入れない
家庭でできる予防では、ベロ毒素そのものを意識して処理するというより、腸管出血性大腸菌を口へ入れないことが基本です。
- 肉は中心部まで十分に加熱する
- 生肉を食べない
- 生肉用と食事用の箸を分ける
- 野菜は流水で洗う
- 調理前や食事前に手を洗う
- トイレ後やおむつ交換後に十分に手を洗う
といった基本的な衛生管理が重要です。
激しい腹痛や血便があるときは医療機関へ
血便にはさまざまな原因があるため、症状だけで腸管出血性大腸菌感染症と診断することはできません。
一方、血便は重要な注意信号です。
特に激しい腹痛を伴う血便などがある場合には、自己判断で様子を見続けず、医療機関へ相談しましょう。
まとめ
腸管出血性大腸菌の大きな特徴は、強い毒性を持つベロ毒素を産生することです。
ポイントを整理すると、
- ベロ毒素は志賀毒素群毒素とも呼ばれる
- VT1とVT2、それぞれの亜型がある
- O157だけでなくO26やO111などもベロ毒素を産生することがある
- 感染すると水様便から激しい腹痛、血便へ進むことがある
- HUSなど全身性の重い合併症につながる場合がある
- 感染しても軽症や無症状の場合もある
ということです。
腸管出血性大腸菌を理解するうえでは、「O157」という番号だけを見るのではなく、「ベロ毒素を産生する菌である」という性質を見ることが重要です。
次の記事では、腸管出血性大腸菌感染症の重い合併症「HUS」とは何なのか、なぜ下痢が治りかけたころにも注意が必要なのかを詳しく解説します。

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