「あの人は味覚がいい」
「自分は味オンチだから……」
食べ物の話をしていると、こんな表現を使うことがあります。
では、そもそも「味覚がいい」って何なのでしょうか。
薄い味を感じ取れること?
料理に入っている食材を当てられること?
一度食べた味を覚えていること?
2026年9月にKevin’s English Room(KER)が「味覚検定3級」に挑戦したことで、改めて「味覚の良さ」が気になった人もいるかもしれません。
実は私たちが普段「味が分かる」と呼んでいる能力は、ひとつだけではありません。
この記事では、
- 味を感じる力
- 味を見分ける力
- 味を覚える力
- 嗅覚
- 食感や温度などの感覚
を分けながら、「味覚がいい・悪い」とは何なのかを整理します。
そもそも「味覚」とは?
まず、医学・生理学的な意味での「味覚」と、普段私たちが使う「味」という言葉を少し分けて考えてみましょう。
人の基本的な味には、
- 甘味
- 酸味
- 塩味
- 苦味
- うま味
という基本五味があります。
これらの味は、主に舌などに存在する味蕾で受容され、その情報が脳へ伝わります。
つまり、
「これは甘い」
「これは酸っぱい」
「塩味を感じる」
という部分が、狭い意味での「味覚」です。
でも「食べ物の味」は舌だけでは決まらない
ここが今回の重要なところです。
私たちが食事中に、
「このカレーおいしい!」
「いちごの味がする!」
と感じているとき、使っているのは舌だけではありません。
食べ物のおいしさや風味には、
- 味覚
- 嗅覚
- 食感
- 温度
- 見た目
- 記憶
- 体調
など、さまざまな要素が関わります。
そのため、日常会話でいう「味が分かる人」は、単純に舌が敏感な人だけを指しているとは限らないのです。
「味覚がいい」を4つの力に分けてみる
「味覚がいい」という曖昧な言葉を理解するには、能力を分けて考えると分かりやすくなります。
| 能力 | どんな力? | 例 |
|---|---|---|
| 感知力 | 味の存在を感じ取る力 | 薄い塩味や甘味に気づく |
| 識別力 | 味や食品の違いを見分ける力 | 複数の食品から違いを見つける |
| 記憶・比較 | 以前の味を覚えて比較する力 | さっき食べたものと同じ味を選ぶ |
| 風味の認識 | 味覚や嗅覚などを合わせて食品を認識する力 | 香りを含めて「いちごらしい」と感じる |
このように分けると、
ある能力が高いから、味に関するすべての能力が高いとは限らない
ことが分かります。
①「感知力」|薄い味に気づけるか
まずは感知力です。
例えば、非常に薄い塩味の液体を飲んだときに、
「何か味がする」
と気づけるかどうか。
そしてさらに、
「これは塩味だ」
と判断できるかどうかです。
KERが挑戦した味覚検定3級にも、微量の基本五味を含む溶液を使った「味の感知力テスト」があります。
この能力は、私たちがイメージする「舌が敏感」に比較的近い部分といえるでしょう。
②「識別力」|混ざっていても分かるか
次は識別力です。
単独で食べれば分かる食材でも、複数の味や香りが混ざると途端に分かりにくくなります。
例えば、
りんごだけなら分かる。
にんじんだけでも分かる。
でも、それらが他の野菜や果物と一緒にジュースになったら?
一気に難しくなります。
味覚検定3級の識別力テストでも、ミックスジュースに含まれる野菜や果物を答える課題が採用されています。
ここでは単純な味の感度だけではなく、複数の情報から特徴を拾って区別する力も必要になります。
③「記憶力」|味を覚えて比較できるか
意外と見落としやすいのが記憶です。
例えば基準となるクッキーを一枚食べ、
その後に複数のクッキーを食べて、
「最初と同じものはどれ?」
と聞かれたらどうでしょう。
食べた瞬間には分かっていたはずなのに、比較すると迷うことがあります。
味覚検定3級にも、基準と同じレシピで作られたクッキーを選ぶ「味の記憶力テスト」があります。
味を感じ取ることと、その特徴を保持して別の食品と比較することは、同じではないのです。
④「嗅覚」|食べ物らしさを感じる重要な要素
そして、普段の食事で非常に重要なのが嗅覚です。
食べ物を口に入れて噛むと、食品から出た香りの成分が口の奥から鼻へ抜けていきます。
この経路で感じる香りは「レトロネイザル(口腔から鼻腔へ抜ける経路)」と呼ばれ、食べ物の風味を感じるうえで重要な役割を持っています。
例えば鼻が詰まっているとき、
「甘いのは分かるけれど、何味なのか分かりにくい」
ということがあります。
舌が基本五味を感じていても、香りの情報が十分に得られないことで、普段感じている「その食品らしい風味」が分かりにくくなるためです。
「味の80%は嗅覚」って本当?
味覚について調べていると、
「味の80%は嗅覚」
「食べ物の味の90%はにおい」
などの表現を見かけることがあります。
しかし、「食べ物の味の○%が嗅覚」と正確な数字で表すことには注意が必要です。
嗅覚が風味の認識に非常に重要なのは確かですが、研究レビューでも「75~95%が嗅覚」といった広く知られた数字について、正確な割合を裏付ける十分な根拠はないことが指摘されています。
そのため、
「味のほとんどは鼻で感じている」
と単純化するより、
「味覚と嗅覚など複数の感覚を脳が統合して、私たちは食べ物の風味を感じている」
と考えるほうが適切です。
鼻をつまむと味が分からなくなるのはなぜ?
よくある実験に、
「鼻をつまんで食べ物を食べてみる」
というものがあります。
鼻をつまんでも、舌で感じる甘味・塩味・酸味などが完全になくなるわけではありません。
変わりやすいのは、香りを含めた「何を食べているのか」という風味の認識です。
つまり、
「甘い」ことは分かる。
でも、その甘さが何の食品なのか分かりにくい。
ということが起こります。
「鼻をつまむと味覚が消える」のではなく、嗅覚から得ていた情報が減ると考えると分かりやすいでしょう。
温度でも「味」は変わって感じる
同じ食品でも、温度によって味の感じ方が変わることがあります。
例えば冷たい状態と温かい状態では、
- 味の感じ方
- 香りの立ち方
- 口当たり
などが変化します。
そのため、
「昨日はおいしかったのに今日は違う」
という場合でも、必ずしも味覚そのものが変化したとは限りません。
食品の温度や状態が違っていた可能性もあります。
食感も「おいしさ」を左右する
さらに食べ物には、
- サクサク
- もちもち
- パリパリ
- とろとろ
- シャキシャキ
といった食感があります。
これらは基本五味ではありません。
しかし私たちが「おいしい」と感じるうえでは非常に大切な情報です。
例えばポテトチップスが湿気ていたら、塩味自体が同じでも「いつもと違う」と感じるでしょう。
つまり「味覚がいいか」を考えるときには、味覚そのものと、食べ物全体を評価する能力を混同しないことも重要です。
辛さは基本五味ではない
ここでもうひとつ、よくある疑問があります。
「辛味は味じゃないの?」
基本五味に辛味は含まれていません。
唐辛子のカプサイシンによるヒリヒリした刺激などは、甘味や塩味とは異なる仕組みで感じています。
そのため、
「辛いものに強い=味覚がいい」
ということにもなりません。
辛さへの強さと、薄い基本五味を感知する能力は分けて考える必要があります。
「濃い味が好き=味覚が悪い」とも限らない
もうひとつ注意したいのが、
「濃い味が好きな人は味覚が鈍っている」
という表現です。
味の好みと、味を感知する能力は同じものではありません。
濃い味付けを好むからといって、その人の味覚機能が低下していると直ちに判断することはできません。
一方で、食習慣によって味への慣れや好みが変化する可能性はあります。
この「濃い味を食べ続けると、本当に味覚が鈍るのか?」については別の記事で詳しく整理します。
体調によって味の感じ方が変わることもある
味や風味の感じ方は、いつでも一定とは限りません。
例えば、
- 鼻が詰まっている
- 口の中が乾燥している
- 体調が悪い
- 薬を服用している
など、さまざまな条件によって変化することがあります。
「今日は味が分かりにくい」
という一回だけの経験で、「自分は味覚が悪い」と決めつける必要はありません。
一方、味やにおいを感じにくい状態が突然現れた、長く続いているなどの場合には、単なる「味オンチ」と考えず医療機関へ相談することも大切です。
味覚がいい・悪いについてよくある質問
味覚がいい人とは舌が敏感な人?
味を感知する能力はひとつの要素ですが、それだけで「味覚がいい」とは決まりません。味の識別や記憶、普段の食事では嗅覚なども関係します。
鼻が悪いと味覚も悪くなる?
鼻の状態によって嗅覚から得られる情報が減ると、食品の風味が分かりにくくなることがあります。ただし、これは舌で基本五味を感じる能力そのものとは分けて考える必要があります。
味の何%が嗅覚なの?
嗅覚は風味に非常に重要ですが、「味の80%」「90%」など特定の割合で示すことには科学的な根拠の問題が指摘されています。正確な割合として覚えないほうがよいでしょう。
辛いものに強い人は味覚がいい?
そうとは限りません。唐辛子の辛さによる刺激は基本五味とは異なる仕組みで感じるため、辛さへの強さだけで味覚の良し悪しは判断できません。
濃い味が好きだと味覚が悪い?
好みと味覚機能は同じではありません。濃い味を好むことだけを理由に「味覚が悪い」と判断することはできません。
まとめ|「味覚がいい」は舌の感度だけでは決まらない
普段何気なく使っている「味覚がいい」という言葉。
しかし実際に食べ物を「味わう」ためには、
- 基本五味を感じる味覚
- 薄い味を感じ取る感知力
- 味や食品を見分ける識別力
- 以前の味と比較する記憶
- 香りを感じる嗅覚
- 温度や食感などの情報
など、さまざまな要素が関係しています。
だからこそ、
「味覚がいい=舌が敏感」
だけでは説明できません。
KERが挑戦した味覚検定でも、感知力だけでなく識別力や記憶力まで測定していたのは、この「味を分かる」という能力の面白さが表れている部分です。
食べ物の味は、舌だけで完成するものではありません。
舌、鼻、口の中、そして脳。
それらから届く情報を組み合わせながら、私たちはひとつの「おいしい」を作っているのです。

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