腸管出血性大腸菌やO157と聞くと、「生肉や焼肉に注意する菌」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
確かに、牛肉やハンバーグなどは腸管出血性大腸菌による食中毒を防ぐうえで重要な食品です。
しかし、注意するのは肉だけではありません。
過去には、サラダや貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬けなど、野菜や果物が原因食品として特定または推定された事例も報告されています。
2026年9月に腸管出血性大腸菌感染症多発警報を発令した滋賀県も、感染予防策として「野菜は生で食べる前や調理前に流水で洗う」よう呼びかけています。
今回は、なぜ腸管出血性大腸菌が野菜から感染することがあるのか、家庭ではどのように扱えばよいのかを栄養士目線で整理します。
- 腸管出血性大腸菌は「肉にしかいない菌」ではない
- 過去には野菜や果物による事例も
- だからといって「生野菜は危険」ではない
- 野菜は加熱せずに食べることがある
- 滋賀県は「流水で洗う」と注意喚起
- なぜ「流水」なの?
- レタスなどの葉物野菜は一枚ずつ
- きゅうりやトマト、果物も洗う
- 複雑な形の野菜は洗いにくい
- 加熱できる野菜は加熱も有効
- 「野菜を洗えば絶対安全」とも言い切れない
- 家庭では「生肉から野菜へ」の二次汚染にも注意
- 生肉の肉汁がサラダに付かないようにする
- 肉を切ったまな板でサラダを作らない
- まな板を使い分けると管理しやすい
- 包丁にも菌は移る
- 手から野菜へ移すこともある
- 調理する順番を工夫する
- カット野菜なら洗わなくてもいい?
- 野菜は冷蔵保存も大切
- 井戸水が感染源になることもある
- 浅漬けによる大規模食中毒もあった
- 「国産だから」「新鮮だから」で判断しない
- 子どもたちに生野菜を出すときも基本は同じ
- 高齢者施設や給食では工程全体を見る
- 今回の滋賀県警報は「野菜が原因」という意味ではない
- 肉か野菜かではなく「菌を口へ入れない」
- まとめ
腸管出血性大腸菌は「肉にしかいない菌」ではない
腸管出血性大腸菌は、牛などの家畜の腸管に存在することがあります。
そのため牛肉などが感染源として知られていますが、菌が食品や水などを汚染することで、肉以外の食品が感染経路になることもあります。
つまり、
「菌を持っている動物」と「実際に口へ入る食品」が必ずしも同じとは限らない
ということです。
過去には野菜や果物による事例も
厚生労働省は、国内の腸管出血性大腸菌O157感染事例で原因食品などとして特定または推定されたものとして、牛肉やハンバーグなどのほか、
- サラダ
- 貝割れ大根
- キャベツ
- メロン
- 白菜漬け
などを挙げています。
海外でも、レタスやホウレンソウ、アルファルファなどが関係した事例があります。
だからといって「生野菜は危険」ではない
ここは誤解しないようにしたいポイントです。
過去に野菜を介した感染事例があるからといって、野菜そのものが危険な食品という意味ではありません。
問題になるのは、腸管出血性大腸菌などの病原微生物によって食品が汚染された場合です。
肉か野菜かという食品の種類だけではなく、どのように生産・流通・調理され、どのように食べるのかという衛生管理全体を見ることが重要です。
野菜は加熱せずに食べることがある
野菜で特に意識したいのが、生で食べる機会が多いことです。
肉であれば中心部まで十分に加熱するという対策があります。
一方、レタス、きゅうり、トマトなどはサラダとして加熱せずに食べることがあります。
そのため、生食する食品では「食べる前に汚染をできるだけ持ち込まない・落とす」という衛生管理が重要になります。
滋賀県は「流水で洗う」と注意喚起
滋賀県は2026年9月の腸管出血性大腸菌感染症多発警報で、野菜を生で食べる前や調理前に流水で洗うよう呼びかけています。
野菜を購入してそのまま食卓へ出すのではなく、適切に洗浄してから調理・喫食することが基本です。
なぜ「流水」なの?
流水で洗うことで、野菜の表面に付着した土や汚れなどを物理的に洗い流すことができます。
ボウルにためた水の中へ入れるだけではなく、流水を利用して表面を丁寧に洗うことがポイントです。
ただし、家庭での水洗いを「完全な殺菌」と考えるのは適切ではありません。
レタスなどの葉物野菜は一枚ずつ
厚生労働省は、レタスなどの葉菜類について、一枚ずつはがして流水で十分に洗うよう案内しています。
葉が重なっている部分には土や汚れが残ることがあります。
外側だけ水をかけて終わるのではなく、食べる部分を確認しながら洗いましょう。
きゅうりやトマト、果物も洗う
生で食べるきゅうりやトマト、りんごなどについても、厚生労働省はよく洗うよう案内しています。
「皮を食べないから洗わなくてもいい」とは限りません。
皮をむくときに、表面に付着していた汚れが手や包丁を介して可食部へ移る可能性もあります。
複雑な形の野菜は洗いにくい
ブロッコリーやカリフラワーなどは形が複雑で、表面を均一に洗いにくい食品です。
厚生労働省は、こうした野菜について熱湯で湯がく方法も案内しています。
加熱できる料理であれば、洗浄と加熱を組み合わせることも衛生管理の一つです。
加熱できる野菜は加熱も有効
腸管出血性大腸菌は熱に弱い菌です。
厚生労働省は、腸管出血性大腸菌を75℃で1分間以上加熱することで死滅するとしています。
また、野菜については100℃の湯で5秒程度湯がくことが除菌に有効とされています。
料理の種類に応じて、十分な洗浄や加熱を組み合わせましょう。
「野菜を洗えば絶対安全」とも言い切れない
流水による洗浄は大切な予防策ですが、「洗ったから菌が必ずゼロになった」と考えるものではありません。
食品衛生では、一つの対策だけに頼るのではなく、
- 適切に保存する
- 調理前に手を洗う
- 野菜を十分に洗う
- 生肉からの二次汚染を防ぐ
- 加熱できる食品は十分に加熱する
など複数の対策を組み合わせることが重要です。
家庭では「生肉から野菜へ」の二次汚染にも注意
せっかく野菜をきれいに洗っても、その後の調理で菌を付着させてしまう可能性があります。
特に注意したいのが、生肉から生野菜への二次汚染です。
生肉の肉汁がサラダに付かないようにする
冷蔵庫や調理台で、生肉のパックから肉汁が漏れ、それが生で食べる野菜へ付着することがあります。
肉や魚は袋や容器へ入れ、肉汁などがほかの食品へかからないように保存しましょう。
肉を切ったまな板でサラダを作らない
生肉を切った包丁やまな板には、病原微生物が付着している可能性があります。
それを洗わずにレタスやきゅうりなどを切れば、生肉から野菜へ菌を移してしまう可能性があります。
肉を扱った器具は十分に洗浄し、必要に応じて消毒してから使用しましょう。
まな板を使い分けると管理しやすい
厚生労働省は、野菜や果物など生食する食品用と、肉や魚用のまな板を使い分けることを勧めています。
家庭では色や形の違うまな板を使うなど、どちらが生肉用なのか分かりやすくしておくと管理しやすくなります。
包丁にも菌は移る
注意するのはまな板だけではありません。
生肉を切った包丁をそのままサラダ用の野菜へ使用すれば、包丁を介して菌が移る可能性があります。
「まな板だけ交換したから大丈夫」ではなく、包丁やトング、ボウルなど生肉に触れた器具全体を意識しましょう。
手から野菜へ移すこともある
生肉を触った手で、そのままレタスをちぎったりトマトを切ったりするのも二次汚染につながります。
生肉を扱ったあとは、石けんと流水で十分に手を洗ってから次の作業へ移りましょう。
調理する順番を工夫する
家庭では、調理の順番を工夫することも二次汚染対策になります。
例えば、生で食べるサラダなどを先に準備し、その後に生肉を扱う方法があります。
加熱せずに食べるものと、生肉を扱う作業をできるだけ分けることで、交差汚染の機会を減らしやすくなります。
カット野菜なら洗わなくてもいい?
市販のカット野菜には、商品によって「洗わずに食べられる」ものがあります。
一方で、厚生労働省の家庭向け食中毒予防では、ラップされた野菜やカット野菜についてもよく洗うよう案内しています。
実際に使用するときには、商品の表示や保存方法を確認し、表示された取り扱い方法に従いましょう。
野菜は冷蔵保存も大切
購入した野菜は、新鮮なうちに使用し、必要なものは冷蔵庫で適切に保存します。
食中毒予防は洗浄だけではなく、購入から保存、下処理、調理、喫食まで一連の流れで考えることが重要です。
井戸水が感染源になることもある
腸管出血性大腸菌では、食品だけでなく井戸水が原因とされた感染事例も報告されています。
井戸水を使用している家庭や施設では、水質管理にも注意が必要です。
野菜を洗う水そのものの衛生状態も、食品衛生を考えるうえでは重要な要素です。
浅漬けによる大規模食中毒もあった
野菜に関連する腸管出血性大腸菌食中毒では、過去に浅漬けを原因とした集団食中毒も発生しています。
特に高齢者施設など、重症化リスクの高い人へ大量に食事を提供する施設では、生で食べる野菜や加熱工程のない食品について、より慎重な衛生管理が求められます。
「国産だから」「新鮮だから」で判断しない
腸管出血性大腸菌などの病原微生物は、食品の見た目や鮮度だけで判断することはできません。
新鮮な野菜だから洗わなくても安全、見た目がきれいだから菌はいない、と考えるのは適切ではありません。
生で食べる場合には、基本的な衛生管理を行いましょう。
子どもたちに生野菜を出すときも基本は同じ
小さな子どもは、腸管出血性大腸菌感染症でHUSなどの重い合併症に注意が必要です。
だからといって野菜そのものを避ける必要はありません。
生で提供する野菜は十分に洗い、調理器具や手指からの二次汚染を防ぐことが大切です。
高齢者施設や給食では工程全体を見る
多数の食事を提供する現場では、単に「野菜を洗ったか」だけではなく、保存、下処理、洗浄、切裁、盛り付けまでの工程全体で汚染を防ぐ必要があります。
特に加熱せず提供する料理では、加熱工程によって菌を減らす機会がないため、前段階の衛生管理が重要になります。
今回の滋賀県警報は「野菜が原因」という意味ではない
2026年9月10日に滋賀県が発令した腸管出血性大腸菌感染症多発警報では、県内全域で患者などの発生が続いています。
しかし、今回の警報発令そのものから、特定の野菜や食品が感染源だと判断することはできません。
滋賀県が野菜の洗浄を呼びかけているのは、腸管出血性大腸菌感染症を予防するための一般的な対策の一つです。
肉か野菜かではなく「菌を口へ入れない」
腸管出血性大腸菌対策では、「肉だけ危険」「野菜も危険」と食品を二分する考え方ではなく、病原菌がどのように口へ入る可能性があるのかを見ることが大切です。
食品そのものの汚染だけでなく、手、包丁、まな板、肉汁、水などを介して菌が移る可能性もあります。
その経路を一つずつ断つことが、食中毒予防につながります。
まとめ
腸管出血性大腸菌は、肉だけに注意すれば防げる感染症ではありません。
過去にはサラダや貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬けなどが原因食品として特定または推定された感染事例も報告されています。
家庭で意識したいポイントは、
- 生で食べる野菜は流水で十分に洗う
- 葉物野菜は一枚ずつ洗う
- 生肉の肉汁を野菜へ付着させない
- 生肉を扱った手で生野菜を触らない
- 肉用と生食用の包丁・まな板を分ける、または十分に洗浄・消毒する
- 加熱できる料理では加熱も活用する
- 野菜そのものを必要以上に怖がらない
ことです。
「O157=肉」というイメージだけでは、食品衛生の大切な部分を見落としてしまいます。
肉でも野菜でも、病原菌を食品へ付けない、広げない、口へ入れないという視点で衛生管理を考えましょう。
次の記事では、腸管出血性大腸菌は食品だけでなく人から人へ感染するのか、家庭内でのおむつ交換や排泄介助などで注意したい二次感染対策を解説します。

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