食品工場では、毎日たくさんの食品や飲料が製造されています。
では、それらの食品が衛生的に製造されているか、どのように確認しているのでしょうか。
その方法のひとつが微生物検査です。
私は以前、飲料メーカーの品質管理部で微生物検査に携わっていました。
食品の安全というと、完成した製品だけを検査して「菌がいなければOK」と考えるかもしれません。
しかし実際の衛生管理では、製品だけを見るのではなく、製造工程や設備、作業環境なども含めて管理していくことが重要です。
この記事では、食品の微生物検査ではどのようなことを調べるのか、食品メーカーで微生物検査を担当した経験も交えながらわかりやすく解説します。
- 食品の微生物検査とは?
- 微生物検査では何を調べる?
- 一般生菌数とは?
- 大腸菌群は何を見る検査?
- 大腸菌群と大腸菌は同じではない
- サルモネラの検査もある
- カビや酵母も微生物
- 完成した食品だけを検査するわけではない
- 製造環境の微生物も調べる
- 空気も衛生管理の対象になることがある
- なぜ空気中の微生物を見るの?
- 微生物検査はどうやって行う?
- 培地に何か生えたら全部食中毒菌?
- 「検出されなかった」は菌が絶対にゼロという意味?
- 検査だけで食品の安全を守るわけではない
- 検査結果は「数字だけ」で判断しない
- 検査は製造現場の「変化」に気づく手がかりにもなる
- 食中毒の調査でも微生物検査が使われる
- 食品から菌が検出されなくても食中毒と判断されることがある
- 家庭で微生物検査ができなくても予防できる
- まとめ|微生物検査は食品だけでなく「製造環境」を見る
食品の微生物検査とは?
食品の微生物検査とは、食品や製造環境などについて、細菌やカビ、酵母などの微生物を調べる検査です。
目的は検査によって異なりますが、
- 食品が衛生的に製造されているか確認する
- 製造工程の衛生状態を確認する
- 品質の変化につながる微生物を確認する
- 基準や社内規格などを満たしているか確認する
といった目的で行われます。
食品の種類や製造方法によって、必要となる検査項目は異なります。
微生物検査では何を調べる?
食品の微生物検査で調べる対象には、さまざまなものがあります。
代表的なものとして、
- 一般生菌数
- 大腸菌群
- 大腸菌
- 黄色ブドウ球菌
- サルモネラ属菌
- カビ
- 酵母
などがあります。
ただし、すべての食品について毎回すべての項目を検査するわけではありません。
食品の特性、原材料、製造工程、法令上の規格基準、衛生管理上の目的などに応じて検査項目が設定されます。
一般生菌数とは?
食品の微生物検査でよく耳にするもののひとつが一般生菌数です。
一定の条件で培養したときに発育する細菌の数を調べ、食品や製造工程の衛生状態などを考えるための指標として利用します。
ここで注意したいのは、
一般生菌数=食中毒菌の数ではない
ということです。
一般生菌数が検出されたからといって、その菌がすべてサルモネラなどの食中毒菌という意味ではありません。
逆に、一般生菌数だけを調べれば、すべての食中毒菌について安全性を確認できるというものでもありません。
大腸菌群は何を見る検査?
大腸菌群は、食品や製造環境などの衛生状態を考える際に利用されてきた指標のひとつです。
「大腸菌群が出た=便が混入した」
と考えてしまうかもしれませんが、これは正確ではありません。
大腸菌群には環境中に存在する菌も含まれます。
そのため、検査結果は食品の種類や製造工程、適用される基準などと合わせて評価する必要があります。
大腸菌群と大腸菌は同じではない
名前が似ていますが、大腸菌群と大腸菌は同じ意味ではありません。
さらに「大腸菌」と「腸管出血性大腸菌」なども、そのまま同じ意味として扱うことはできません。
微生物検査では、
「何という名前の菌が出たか」
だけではなく、
「何を目的として、どの検査を行ったのか」
を理解することが重要です。
サルモネラの検査もある
食品によっては、サルモネラ属菌など特定の病原微生物を対象とした検査が行われます。
サルモネラは食中毒の原因となる細菌です。
検査では、検体中に目的とする菌が存在するかを調べていきます。
ただし、サルモネラの検査結果を考える際にも、単純に「出た・出なかった」という言葉だけを見るのではなく、検体の種類や採取方法、検査法などを確認することが重要です。
カビや酵母も微生物
微生物検査というと、食中毒を起こす細菌だけを調べていると思われがちです。
しかし食品メーカーにとっては、カビや酵母も重要な管理対象になることがあります。
食品や飲料の種類によっては、カビや酵母が増殖することで、味や香り、外観などの品質に影響する可能性があります。
そのため、食品の特性に合わせて必要な微生物を調べます。
完成した食品だけを検査するわけではない
食品メーカーの衛生管理で重要なのは、完成品だけを見ないことです。
完成した食品だけではなく、必要に応じて、
- 原材料
- 製造途中の食品
- 製造設備
- 作業環境
- 使用する水
なども衛生管理の対象になります。
なぜなら、完成品に問題が起きる前に、製造工程の変化や衛生上の問題を捉えることが重要だからです。
製造環境の微生物も調べる
食品工場では、食品そのものだけでなく、食品を作っている環境も重要です。
製造設備や作業場所の衛生状態を確認する方法として、ふき取り検査などが行われることがあります。
対象となる場所をふき取り、その検体を調べることで、清掃や衛生管理が適切に行われているかを確認する材料にします。
「食品から菌が出てから考える」のではなく、食品へ微生物が入り込む可能性のある環境を管理するという考え方です。
空気も衛生管理の対象になることがある
私が飲料メーカーの微生物検査業務で担当していたもののひとつに、製造環境の空気を確認する検査がありました。
エアーサンプラーという機器を使い、一定量の空気を吸引して、空気中に存在する微生物を確認する方法です。
食品そのものに直接触れているものだけではなく、製品を作っている環境全体を見る。
実際に食品メーカーで働いていたとき、このような環境管理も品質管理の一部として行われていました。
なぜ空気中の微生物を見るの?
食品を製造する場所には、人、設備、原材料などさまざまなものが存在します。
空気中にも微生物が存在するため、製造する食品や工程によっては環境中の微生物を把握することが衛生管理の材料になります。
ただし、空気中に微生物が存在すること自体をもって、すぐに「食品が危険」という意味になるわけではありません。
決められた方法で継続的に確認し、通常の状態と比較しながら製造環境を管理していくことが重要です。
微生物検査はどうやって行う?
検査方法は対象となる微生物や食品によって異なりますが、培養を利用する検査では、検体を目的に合った培地などへ接種し、決められた条件で培養して確認します。
検査によっては、目的とする菌を増やしやすくする工程や、ほかの菌と区別する工程などを組み合わせます。
そのため、
「菌があるかどうか見るだけ」
という単純な作業ではありません。
検体の採取から結果の判定まで、決められた検査方法に従って行うことが重要です。
培地に何か生えたら全部食中毒菌?
培養後の培地に微生物が発育したとしても、それだけで食中毒菌と判断できるわけではありません。
検査の目的によって、発育したものの数を確認したり、特徴を確認したり、必要に応じてさらに検査を進めたりします。
ここでも重要なのは、
「菌が生えた=危険な食中毒菌がいた」ではない
ということです。
「検出されなかった」は菌が絶対にゼロという意味?
微生物検査の結果を見るうえで、もうひとつ知っておきたいのが「陰性」や「不検出」という言葉です。
検査で目的とする微生物が検出されなかった場合でも、あらゆる場所に菌が一個も存在しないことを証明した、という意味ではありません。
微生物検査は、採取した検体を、決められた方法・条件で調べた結果です。
食品は均一とは限らず、微生物が存在していても検体として採取した部分に含まれない場合もあります。
そのため、検査結果は衛生管理を考えるための重要な情報ではありますが、「一回検査して陰性だったから何をしても安全」というものではありません。
検査だけで食品の安全を守るわけではない
これは食品の衛生管理を理解するうえで、とても重要なところです。
完成品をすべて検査することは現実的ではありません。
また、検査した食品をすべて消費してしまえば商品として出荷できません。
そのため食品の安全は、完成品検査だけに頼るのではなく、
- 原材料の管理
- 製造工程の管理
- 加熱や冷却などの管理
- 設備の洗浄・衛生管理
- 従事者の衛生管理
- 記録
- 必要な検査
などを組み合わせて守ります。
現在の食品衛生では、問題が起きた完成品を最後に見つけるだけでなく、問題が起こりにくい製造工程を作り、管理することが重要です。
検査結果は「数字だけ」で判断しない
微生物検査では、菌数などが数字として示されることがあります。
しかし、その数字だけを見て食品の良し悪しを判断することはできません。
どの食品を、どの段階で、何の目的で検査したのか。
どの基準や社内規格と比較しているのか。
過去の検査結果と比べて変化していないか。
こうした背景と合わせて評価することが重要です。
検査は製造現場の「変化」に気づく手がかりにもなる
微生物検査の役割は、単に合格・不合格を決めることだけではありません。
同じ条件で継続して検査を行うことで、製造環境の状態に変化がないかを見る材料にもなります。
たとえば、普段と異なる結果が続いた場合には、
- 清掃状態
- 設備
- 製造工程
- 原材料
- 作業方法
などを確認するきっかけになります。
異常が起きてから調べるだけではなく、異常につながる変化を早く見つける。
微生物検査には、そのような役割もあります。
食中毒の調査でも微生物検査が使われる
食品メーカーの日常的な品質管理だけでなく、食中毒が疑われる事例でも微生物検査が行われます。
2026年8月の麻布十番納涼まつりで発生した食中毒では、患者便、調理従事者便、ふき取り検体、食品などについて細菌検査などが行われました。
港区が9月3日に公表した時点では、患者便101検体の細菌検査のうち31検体からサルモネラ属菌が検出され、従事者便からもサルモネラ属菌が検出されています。
一方、食品2検体の細菌検査では原因となったサルモネラ属菌は検出されていませんでした。
食品から菌が検出されなくても食中毒と判断されることがある
「原因食品なのに、食品から菌が出ていないのはおかしくない?」
と思うかもしれません。
しかし、食中毒の判断は食品検査だけで行われるものではありません。
麻布十番の事例では、
- 患者が共通して冷やし蟹ラーメンを食べていた
- 複数の患者と従事者の便からサルモネラ属菌が検出された
- 潜伏時間や症状がサルモネラ食中毒と一致した
- 医師から食中毒の届出があった
ことなどを総合し、みなと保健所が「冷やし蟹ラーメン」を原因食品、サルモネラ属菌を原因物質とする食中毒と判断しています。
微生物検査は非常に重要ですが、検査結果だけですべてが決まるわけではないことがわかります。
家庭で微生物検査ができなくても予防できる
家庭では、食事を作るたびに微生物検査をすることはできません。
しかし、食中毒を予防することはできます。
基本となるのが、
- 菌を「つけない」
- 菌を「増やさない」
- 菌を「やっつける」
という細菌性食中毒予防の3原則です。
手洗い、二次汚染防止、適切な温度管理、十分な加熱など、基本的な衛生管理を積み重ねることが重要です。
まとめ|微生物検査は食品だけでなく「製造環境」を見る
食品の微生物検査では、食品の種類や目的に応じて、一般生菌数、大腸菌群、特定の食中毒菌、カビ、酵母などさまざまな微生物を調べます。
さらに食品メーカーでは、完成した食品だけでなく、設備や製造環境なども衛生管理の対象になります。
私自身、飲料メーカーの品質管理部で微生物検査を担当していたときには、エアーサンプラーを使った製造環境の確認にも携わっていました。
そこで重要なのは、
「最後に検査して問題がなければ安全」という考え方ではない
ということです。
原材料、製造工程、人、設備、環境、温度管理などを管理し、その状態を確認する手段のひとつとして微生物検査があります。
目には見えない微生物だからこそ、検査と日々の衛生管理を組み合わせて食品の安全を守っていくことが大切です。


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