腸管出血性大腸菌感染症は、食品から感染するだけではありません。
患者や無症状病原体保有者の便に含まれる菌が、手指や物などを介して口へ入ることで、人から人へ広がることがあります。
特に保育園では、まだ排泄習慣が確立していない乳幼児も多く、おむつ交換やトイレ介助など、職員が排泄物に関わる場面が日常的にあります。
さらに、子どもたちは手や玩具などを口へ持っていくこともあります。
2026年9月10日に本年度5回目となる腸管出血性大腸菌感染症多発警報を発令した滋賀県も、おむつ交換時の手洗い、幼児・児童への食前の手洗い指導、簡易プールの衛生管理に注意するよう呼びかけています。
今回は、保育園など乳幼児が集団生活をする場所で腸管出血性大腸菌を広げないために、どこに注意すればよいのかを栄養士・子育て支援員の視点から整理します。
- 腸管出血性大腸菌は保育園でも集団感染につながることがある
- 保育園では「食中毒対策」だけでは足りない
- 乳幼児ではおむつ交換が重要なポイント
- おむつ交換後は石けんと流水で手洗い
- 手袋を使っても手洗いは必要
- おむつ交換場所を決める
- 「一人交換したら次の子へ」の間も重要
- おむつ交換から食事介助へ移るときは特に注意
- 子どもたち自身の手洗いも大切
- 小さな子どもの手洗いは大人が確認する
- 手洗いは感染対策であると同時に生活習慣
- トイレ周辺も汚染される可能性がある
- 玩具など「子どもが触るもの」も考える
- 給食では十分な加熱を
- 生肉からサラダなどへの二次汚染を防ぐ
- 腸管出血性大腸菌は少ない菌数でも感染する
- 簡易プールにも注意
- 下痢をしている子どもはプールに入れない
- 簡易プールは水をためているからこそ注意
- 家庭用プールでは使用ごとに水を交換
- 保育施設のプールは施設の衛生管理基準に従う
- 「水遊びなら全部同じ」ではない
- 下痢がある子どもの水遊びは慎重に
- 患者が発生したら保健所と連携する
- 登園再開は「下痢が止まったからOK」と自己判断しない
- 無症状病原体保有者がいることも忘れない
- 感染した子どもや家庭を責めない
- 職員同士で手順をそろえる
- 「いつもの保育」の中に感染対策を組み込む
- 2026年の滋賀県では本年度5回目の警報
- 保育園で特に確認したいポイント
- まとめ
腸管出血性大腸菌は保育園でも集団感染につながることがある
腸管出血性大腸菌にはO157、O26、O111など複数の種類があります。
菌に汚染された食品などを口にする経口感染のほか、患者の便に含まれる菌が手指などを介して口へ入ることでも感染します。
そのため、保育園では給食の衛生管理だけではなく、排泄や手洗いを含めた生活全体の感染対策が重要です。
保育園では「食中毒対策」だけでは足りない
腸管出血性大腸菌というと、生肉や加熱不足のハンバーグなどを思い浮かべるかもしれません。
もちろん給食での加熱や二次汚染防止は重要です。
しかし、感染した子どもが園内にいる場合には、便を介した二次感染にも注意しなければなりません。
食品衛生と感染症対策の両方から考える必要があります。
乳幼児ではおむつ交換が重要なポイント
0〜2歳児などのおむつを使用している子どもでは、職員がおむつ交換を行います。
便に直接触れていなくても、おむつや子どもの皮膚、おむつ交換場所などに菌が付着している可能性があります。
特に下痢便は広がりやすいため、排泄物を扱ったあとの衛生管理が重要です。
おむつ交換後は石けんと流水で手洗い
滋賀県は今回の警報でも、おむつ交換時の手洗いを徹底するよう呼びかけています。
おむつ交換が終わったら、石けんと流水で十分に手を洗います。
これは担当した子どもに症状があるときだけ行う特別な対策ではなく、日常的なおむつ交換でも重要な基本です。
手袋を使っても手洗いは必要
排泄物を扱う際に使い捨て手袋を使用することは、手指の汚染を防ぐ方法の一つです。
しかし、手袋を外す際に手が汚染される可能性があります。
「手袋をしていたから手はきれい」と考えず、処理後には手洗いを行います。
おむつ交換場所を決める
おむつ交換による汚染を広げないためには、交換する場所を決めておくことも重要です。
食事をする場所や食品を扱う場所と、排泄物を扱う場所をできるだけ分けます。
おむつ交換後には、周囲の環境にも汚染が広がっていないか確認します。
「一人交換したら次の子へ」の間も重要
保育園では複数の子どものおむつを続けて交換することがあります。
一人のおむつ交換が終わったあと、そのまま次の子どもへ移れば、手指や環境を介して汚染を広げる可能性があります。
一人ひとりの交換を一つの作業として区切り、必要な衛生管理を行ってから次の子どもへ移ることが大切です。
おむつ交換から食事介助へ移るときは特に注意
乳児クラスでは、おむつ交換のあとに離乳食や給食の介助へ入ることもあります。
排泄物を扱った手で食品や食器へ触れれば、菌を口へ運ぶ経路を作ってしまいます。
おむつ交換後の手洗いを確実に行い、排泄に関わる作業と食事に関わる作業を意識して切り替えることが重要です。
子どもたち自身の手洗いも大切
職員だけが手を洗えばよいわけではありません。
滋賀県は今回の警報で、幼児・児童に対する食前の手洗い指導を徹底するよう呼びかけています。
特に、
- トイレのあと
- 食事やおやつの前
- 外遊びのあと
など、生活の中で手洗いを習慣化していくことが重要です。
小さな子どもの手洗いは大人が確認する
幼児は「手を洗った」と言っていても、水に少し触れただけだったり、十分に洗えていなかったりすることがあります。
年齢や発達に応じて、大人が一緒に洗ったり、洗えているか確認したりすることが必要です。
手洗いは感染対策であると同時に生活習慣
保育園での手洗いは、感染症が流行している期間だけ行うものではありません。
毎日の生活の中で繰り返し経験することで、子ども自身が手を洗うタイミングを覚えていきます。
普段から習慣化されていることが、感染症発生時の対策にもつながります。
トイレ周辺も汚染される可能性がある
排泄後の手指で触れる場所には菌が付着する可能性があります。
例えば、
- 便座
- 水を流すレバーやボタン
- ドアノブ
- 手すり
- 蛇口周辺
などです。
患者が確認された場合には、保健所の指示に従って必要な清掃・消毒を行います。
玩具など「子どもが触るもの」も考える
乳幼児は、玩具を触った手を口へ入れたり、玩具そのものを口へ持っていったりします。
そのため感染症対策では、手指だけを見るのではなく、子どもたちが日常的に触れる環境全体を考える必要があります。
患者が発生した場合には、園独自の判断だけで対応範囲を決めず、保健所などの指示に従って必要な消毒を行いましょう。
給食では十分な加熱を
保育園では、二次感染対策と同時に食品からの感染も防ぐ必要があります。
食肉など加熱して食べる食品は中心まで十分に加熱します。
特にハンバーグなどのひき肉料理では、表面だけでなく中心部まで加熱されていることが重要です。
生肉からサラダなどへの二次汚染を防ぐ
加熱しない食品へ生肉由来の菌を移さないことも重要です。
生肉を扱った包丁やまな板、手指などから、生で提供する野菜や加熱済み食品へ菌を付着させないよう管理します。
調理工程全体で「生の食品」と「食べられる状態の食品」を分けて考えることが大切です。
腸管出血性大腸菌は少ない菌数でも感染する
腸管出血性大腸菌は少ない菌数でも感染が成立する可能性があります。
そのため、保育園のように子ども同士や職員との接触が多い環境では、「少しくらいなら大丈夫」と考えないことが重要です。
簡易プールにも注意
滋賀県が今回の警報で特に挙げているのが、簡易プールの衛生管理です。
腸管出血性大腸菌は便を介して感染するため、プールの水が便などで汚染されれば、感染拡大につながる可能性があります。
下痢をしている子どもはプールに入れない
厚生労働省は、家庭用プールについて、患者や下痢をしている子どもなどは入れないよう呼びかけています。
「元気だから」「熱がないから」だけで判断するのではなく、便の状態も確認することが重要です。
簡易プールは水をためているからこそ注意
簡易プールでは、複数の子どもが同じ水に入ります。
一人の子どもから便由来の菌が水へ入れば、ほかの子どもがその水に触れます。
さらに、小さな子どもは遊んでいる最中に水が口へ入ることもあります。
そのため、水の衛生管理が重要になります。
家庭用プールでは使用ごとに水を交換
厚生労働省は家庭用プールについて、水道水を使用し、使用のたびに水を交換するよう案内しています。
前日に使用した水をそのまま翌日も使用する、といった管理は避けましょう。
保育施設のプールは施設の衛生管理基準に従う
保育施設で使用するプールについては、施設の種類や設備、自治体の指導などによって必要な管理方法が異なる場合があります。
園でプール活動を行う場合には、国や自治体、保健所などの基準・指導に従い、適切な水質・衛生管理を行うことが重要です。
「水遊びなら全部同じ」ではない
プール、水遊び、シャワーなどは、設備や水の使い方が異なります。
そのため、「プールはこの方法だから水遊びも同じ」と一律に考えるのではなく、それぞれの活動で子ども同士が水を共有するのか、排泄物による汚染が起こり得るのかを考えます。
下痢がある子どもの水遊びは慎重に
特に下痢がある場合には、腸管出血性大腸菌だけでなく、さまざまな感染性胃腸炎を広げる可能性があります。
水を共有する活動への参加については、子どもの症状や感染症の状況、園の基準などを確認して判断します。
患者が発生したら保健所と連携する
保育園で腸管出血性大腸菌感染症の患者が確認された場合、園だけで感染経路や対応範囲を判断するものではありません。
保健所など関係機関と連携し、必要な調査や消毒、感染拡大防止策を進めます。
登園再開は「下痢が止まったからOK」と自己判断しない
腸管出血性大腸菌感染症では、症状がなくなったあとも便から菌が排出される場合があります。
そのため、単に「元気になった」「下痢が止まった」という理由だけで登園再開を判断するものではありません。
医師や保健所などの指示、最新の保育所における感染症対策の基準に従うことが重要です。
無症状病原体保有者がいることも忘れない
腸管出血性大腸菌に感染しても、症状が出ない人がいます。
そのため、感染者が確認されたあとに接触者などの調査が行われ、症状のない人から菌が確認される場合もあります。
「元気に見えるから感染していない」と園側だけで判断することはできません。
感染した子どもや家庭を責めない
感染症が発生すると、「誰が最初だったのか」「どこから持ち込んだのか」が気になることがあります。
しかし、腸管出血性大腸菌には無症状病原体保有者も存在し、潜伏期間もあります。
感染源を推測して子どもや家庭を責めるのではなく、保健所などによる調査と感染拡大防止に協力することが重要です。
職員同士で手順をそろえる
感染対策では、一人だけが丁寧に行っていても十分ではありません。
例えば、おむつ交換の場所や手順、排泄物の処理、清掃方法などが職員によって大きく違えば、衛生管理に抜けが生じる可能性があります。
普段から園内で手順を共有しておくことが大切です。
「いつもの保育」の中に感染対策を組み込む
腸管出血性大腸菌感染症の警報が出てから、突然すべての衛生管理を始めるのではありません。
おむつ交換後に手を洗う。
子どもたちが食事前に手を洗う。
下痢をしている子どもを水を共有する活動へ参加させない。
給食を安全に調理する。
こうした一つひとつは、日常の保育の中で行われている基本的な衛生管理です。
感染症が発生したときに、その基本を改めて確実に実行できることが重要です。
2026年の滋賀県では本年度5回目の警報
滋賀県は2026年9月10日、県内全域に本年度5回目となる腸管出血性大腸菌感染症多発警報を発令しました。
発令期間は9月20日までです。
今回の警報は、特定の保育園で集団感染が起きたという発表ではありません。
県内全域で患者などの発生が続き、警報発令基準に達したことによる注意喚起です。
保育園で特に確認したいポイント
- おむつ交換後に石けんと流水で手を洗う
- 手袋を使用しても交換後には手を洗う
- おむつ交換場所を決めて汚染を広げない
- 排泄に関わる作業から食事介助へ移る前に手指衛生を徹底する
- 子どもたちの食事前・トイレ後の手洗いを確認する
- 給食では食肉などを十分に加熱する
- 生肉から加熱済み食品や生野菜への二次汚染を防ぐ
- 下痢をしている子どもをプールへ入れない
- 簡易プールなどの衛生管理を徹底する
- 患者発生時には保健所など関係機関と連携する
まとめ
保育園で腸管出血性大腸菌感染症を広げないためには、給食の衛生管理だけでは十分ではありません。
腸管出血性大腸菌は、患者や無症状病原体保有者の便を介して人から人へ感染することがあります。
特に乳幼児が生活する保育園では、おむつ交換、トイレ、食事、手洗い、簡易プールなど、日常生活のさまざまな場面が感染対策につながっています。
大切なのは、特別なことを一つ行うのではなく、「便から手へ、手から口へ」という感染経路を日常の保育の中で一つずつ断つことです。
おむつ交換後の手洗い、子どもたちの食前の手洗い、排泄物の適切な処理、給食の衛生管理、プールの適切な管理。
こうした基本を職員全体で積み重ねることが、集団生活の中で感染を広げないための重要な対策になります。


コメント