ウェルシュ菌食中毒が大量調理で起きやすいのはなぜ?給食・施設で注意したい温度管理

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ウェルシュ菌による食中毒では、学校や高齢者施設、病院、寮など、一度に多くの食事を作る施設で集団発生することがあります。

2026年9月には、徳島刑務所で18人、徳島市内の介護施設2カ所で29人が発症するウェルシュ菌食中毒が公表されました。

どちらも多人数へ食事を提供する大量調理の現場です。

では、なぜウェルシュ菌は大量調理で特に注意が必要なのでしょうか。

ポイントになるのは、「大鍋だから菌が入る」という単純な話ではありません。

ウェルシュ菌が作る熱に強い芽胞と、調理後の食品が冷えるまでの時間、そして保存・提供時の温度管理が重要です。

今回は、給食や施設でウェルシュ菌食中毒を防ぐために知っておきたい温度管理を、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルなどをもとに整理します。

ウェルシュ菌はなぜ大量調理で問題になる?

ウェルシュ菌は、土壌や水、人や動物の腸管など自然界に広く存在する細菌です。

特徴の一つが「芽胞」を形成することです。

芽胞は熱に強いため、加熱調理を行っても生き残る場合があります。

その後、食品が菌の増殖に適した温度になると、生き残った芽胞から菌が増殖する可能性があります。

特に大量調理では、作った料理が少量の家庭料理より冷めにくくなります。

この「冷めるまでに時間がかかる」という特徴が、ウェルシュ菌対策では重要になります。

大鍋の料理は中心まで冷めにくい

例えば、少量の煮物を浅い容器へ入れた場合と、大きな鍋いっぱいの煮物をそのまま置いた場合を考えてみましょう。

少量なら比較的短時間で温度が下がります。

しかし、大鍋の料理では表面が冷えてきても、中心部分には熱が残ります。

大量の食品ほど中心部まで冷却するのに時間がかかるためです。

その間、食品内部が食中毒菌の増殖に適した温度帯に長くとどまる可能性があります。

大量調理マニュアルでは「約20~50℃」に注目

厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」では、加熱調理後に食品を冷却する場合、食中毒菌の発育至適温度帯である約20~50℃を通過する時間を可能な限り短くすることが重要とされています。

つまり、「最終的に冷蔵庫へ入れたから大丈夫」だけでは十分ではありません。

熱い料理が冷たい状態になるまでの途中の時間も管理する必要があります。

特に大量調理では、この温度帯をできるだけ速く通過させることが重要です。

冷却は「30分で20℃付近」が一つの目安

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルには、かなり具体的な冷却の目安があります。

加熱調理した食品を冷却する場合は、冷却機を使用したり、衛生的な容器へ小分けしたりするなどして、次のように速やかに温度を下げるよう工夫するとされています。

  • 30分以内に中心温度を20℃付近まで下げる
  • または60分以内に中心温度を10℃付近まで下げる

さらに、冷却開始時刻と冷却終了時刻を記録することも示されています。

単に「冷蔵庫へ入れました」で終わるのではなく、実際に食品の中心温度がどのように下がったのかを確認する考え方です。

なぜ中心温度を見るの?

大量調理では、食品の表面と中心部で温度が異なることがあります。

表面を触って「もう冷めている」と感じても、鍋や容器の中心部はまだ温かい可能性があります。

ウェルシュ菌などの増殖を防ぐためには、食品全体が適切な温度まで下がっていることが重要です。

そのため大量調理では、感覚だけではなく中心温度を測定して管理することが必要になります。

保存するなら10℃以下または65℃以上

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理後すぐに提供しない食品について、食中毒菌の増殖を抑えるため「10℃以下または65℃以上」で管理することが必要とされています。

冷たい状態で提供・保存する食品なら10℃以下。

温かい状態で提供する食品なら、適切な保温設備などを使って高温を維持します。

重要なのは、菌が増殖しやすい中間の温度帯に食品を長時間置かないことです。

徳島県の「55℃以上」と厚労省の「65℃以上」は違う?

ウェルシュ菌について調べていると、「55℃以上」と「65℃以上」という2つの数字を目にすることがあります。

徳島県のウェルシュ菌食中毒に関する案内では、やむを得ず保存する場合について「55℃以上を保つか、小分けして急速に冷却し10℃以下」としています。

一方、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理後すぐ提供しない食品について「10℃以下または65℃以上」での管理が必要とされています。

対象となる資料と目的が異なるため、数字だけを取り出して混同しないことが大切です。

学校や社会福祉施設などの大量調理施設で衛生管理を考える場合には、施設に適用される基準やマニュアルに従って管理する必要があります。

大量調理施設衛生管理マニュアルの対象は?

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルは、同一メニューを1回300食以上、または1日750食以上提供する調理施設を対象としています。

集団給食施設などで食中毒を防ぐため、HACCPの考え方に基づいた重要な管理事項が示されています。

主な柱は、原材料の受け入れ・下処理、十分な加熱、加熱後の二次汚染防止、そして原材料や調理済み食品の温度管理です。

なお、規模がこの数字に満たない施設であっても、食品衛生上の温度管理が不要になるわけではありません。

提供まで30分以上かかる場合にもルールがある

大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理終了後から提供までの時間についても管理方法が示されています。

調理終了後30分以内に提供できる場合は、調理終了時刻を記録します。

提供まで30分以上かかる場合、温かい状態で提供する食品は速やかに保温食缶などへ移します。

それ以外の食品については、提供まで10℃以下で保存することとされています。

給食では「調理が終わった時間」から「利用者が食べる時間」までの管理も重要ということです。

配送中も温度管理が必要

今回の徳島市内の介護施設のように、調理した施設とは別の場所へ給食を届ける場合があります。

この場合、厨房の中だけ温度管理をしていても十分ではありません。

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、配送時にも保冷・保温設備を備えた運搬車などを使い、10℃以下または65℃以上の適切な温度で管理することが示されています。

配送時刻についても記録することとされています。

つまり、調理施設から提供施設までの移動時間も衛生管理の一部です。

受け取った施設側にも温度管理がある

共同調理施設などで作られた給食を受け取る施設側にも管理があります。

大量調理施設衛生管理マニュアルでは、温かい状態で提供する食品以外で、受け取ってから提供まで30分以上かかる場合、提供まで10℃以下で保存することが示されています。

給食業者が適切に調理・配送しても、施設へ到着してから長時間不適切な温度で置かれればリスクにつながります。

そのため給食の衛生管理は、「調理業者だけ」「施設だけ」で完結するものではありません。

調理から2時間以内の喫食が望ましい

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理後の食品は調理終了後から2時間以内に食べることが望ましいとされています。

これは、調理後の食品を必要以上に長時間保管しないための考え方です。

大量調理では、調理開始から配膳までさまざまな工程があります。

だからこそ「何時に調理が終わったか」「何時に配送したか」「何時に提供したか」を記録することが重要になります。

温度だけでなく「時間」もセットで管理する

食中毒対策では温度の数字だけに注目しがちですが、温度と時間はセットで考える必要があります。

例えば食品が一時的に菌の増殖しやすい温度になったとしても、その時間を可能な限り短くすることが重要です。

逆に、菌が増殖しやすい温度で長時間放置すれば、リスクは高くなります。

そのため大量調理では、温度計による測定と時刻の記録が重要になります。

ウェルシュ菌対策で「記録」が重要な理由

大量調理施設衛生管理マニュアルでは、温度だけでなくさまざまな時刻を記録することが求められています。

  • 冷却開始時刻
  • 冷却終了時刻
  • 調理終了時刻
  • 保温食缶などへ移した時刻
  • 保冷設備への搬入・搬出時刻
  • 配送時刻

記録があれば、「いつ、どの工程で温度管理が崩れた可能性があるのか」を振り返る材料になります。

食中毒を防ぐだけでなく、万が一問題が起きたときに調理工程を検証するうえでも重要です。

徳島の介護施設ではどの工程に問題があった?

2026年9月に徳島市内の介護施設2カ所で発生したウェルシュ菌食中毒では、給食業者が調理・提供した9月16日の昼食を66人が食べ、29人が発症しました。

しかし、9月23日時点で「冷却に時間がかかった」「配送時の温度が不適切だった」など、具体的な工程上の原因は公表されていません。

大量調理で一般的に注意すべきポイントを、そのまま今回の原因と決めつけることはできません。

原因とされているのは9月16日の昼食ですが、どの一品で、どの工程でウェルシュ菌が増殖したのかについては続報を待つ必要があります。

徳島刑務所の食中毒も原因工程は未公表

同じ9月23日に公表された徳島刑務所のウェルシュ菌食中毒でも、男性受刑者18人が発症しました。

こちらも刑務所内の炊事工場で調理・提供された食事が原因とされています。

一方で、個別の原因料理やウェルシュ菌が増殖した具体的な工程は公表されていません。

「大量調理だったから冷却ミスがあったはず」と断定することはできないため、一般的な予防策と今回の原因調査は分けて考える必要があります。

給食施設で確認したい温度管理の流れ

工程温度管理のポイント
加熱中心部まで十分に加熱する
冷却約20~50℃の時間を可能な限り短くする
急速冷却30分以内に中心温度20℃付近、または60分以内に10℃付近を目指す
低温保存10℃以下で管理
温かい状態での管理大量調理施設衛生管理マニュアルでは65℃以上
配送保冷・保温設備などで適切な温度を維持
提供調理終了後から2時間以内の喫食が望ましい

大切なのは、一つの数字だけを守ればよいという考え方ではありません。

調理から冷却、保存、配送、配膳、喫食まで食品の温度と時間を連続して管理する必要があります。

家庭ではどう考えればいい?

家庭で300食を作ることはほとんどありませんが、基本的な考え方は参考になります。

カレーや煮物などを多めに作った場合、大鍋のまま室温に長時間置かないことが重要です。

残す場合は浅い容器などへ小分けし、速やかに冷却して冷蔵します。

食べる際には十分に再加熱し、再加熱後も長時間放置せず早めに食べます。

「一度火を通したから大丈夫」ではなく、火を止めた後の時間と温度にも注意することがウェルシュ菌対策につながります。

まとめ

ウェルシュ菌食中毒が大量調理で問題になりやすい理由の一つは、大量の食品ほど調理後に中心まで冷えるのに時間がかかることです。

ウェルシュ菌は熱に強い芽胞を形成するため、加熱を生き残った菌を調理後に増殖させないことが重要になります。

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、冷却時に食中毒菌の発育至適温度帯である約20~50℃を通過する時間を可能な限り短くするよう求めています。

冷却する場合は、30分以内に中心温度20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げるよう工夫します。

また、調理後すぐに提供しない食品は10℃以下または65℃以上で管理し、調理終了後から2時間以内に食べることが望ましいとされています。

さらに、調理施設から別の施設へ給食を配送する場合には、配送中や受け取り後の温度管理も必要です。

ウェルシュ菌対策では「十分に加熱したか」だけを見るのではなく、調理後から食べるまでの時間と温度を連続して管理することがポイントです。

2026年9月に徳島で発生した2件のウェルシュ菌食中毒については、具体的にどの工程で菌が増殖したのかまでは公表されていません。

一般的な大量調理のリスクを今回の原因と断定せず、今後の調査結果と分けて考える必要があります。

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