「あと一口だけ食べてみよう」
「苦手だけど少し味見してみる?」
保育園やこども園の給食では、子どもがさまざまな食材を経験できるよう、職員が声をかけることがあります。
では、その声かけがどこから「無理やり食べさせる行為」になるのでしょうか。
新潟市西区の認定こども園「有明こども園」では、保育教諭が複数の園児に対して行った行為など計11件が虐待と認定されました。
報じられている行為の中には、「食べ物を口に押し込む」というものもあります。
ただし、ここでひとつ区別しておきたいことがあります。
現時点で確認できる報道では、この行為が「完食させること」を目的として行われたのかまでは明らかになっていません。
そのため、有明こども園で「完食指導が行われていた」と断定することは避けます。
この記事では今回の事案をきっかけに、保育施設での食事介助について、どこから不適切な関わりや虐待につながり得るのかを考えます。
- 有明こども園では「食べ物を口に押し込む」行為が報じられた
- 「完食してほしい」と思うこと自体が虐待なの?
- 国の調査でも「無理に食べさせる」事例が問題に
- では「一口食べてみよう」と声をかけるのもダメ?
- 「嫌がっている」のに続ければ問題が大きくなる
- 「一口だけ」が積み重なることにも注意
- 「苦手克服」が目的なら強制していいわけではない
- 完食をゴールにすると子どものサインを見失いやすい
- 0歳児では特に「もういらない」のサインを見る
- 無理に食べさせることは安全面からも考える必要がある
- 食事介助は「口へ運ぶ仕事」ではない
- 保育者一人の判断にしないことも重要
- 2025年10月から保育所等職員による虐待の通報制度も強化
- どこから不適切保育になる?「一言」で線は引けない
- 「食べられた」だけで成功と判断しない
- まとめ|「食べさせる」より「食べられる環境をつくる」
有明こども園では「食べ物を口に押し込む」行為が報じられた
有明こども園では、保育教諭1人が2025年度から2026年6月までの間、複数の園児に対して不適切な行為をしていたとされています。
報道されている行為には、
- あざができるほど強く押さえつける
- 腕をねじる
- 叩く
- 食べ物を口に押し込む
などがあります。
新潟市は、保育教諭による9件と、園長が適切な対応を取らなかった2件の計11件を虐待と認定し、改善勧告を通知しました。
食事は毎日の保育の中で繰り返される時間です。
だからこそ、「食べさせる」という大人側の目的が強くなりすぎていないかを考える必要があります。
「完食してほしい」と思うこと自体が虐待なの?
もちろん、「できればいろいろなものを食べてほしい」と考えること自体が虐待なのではありません。
子どもが食材を経験できるように声をかけたり、興味を持てるように働きかけたりすることも食育の一部です。
しかし、子どもが明確に嫌がっているにもかかわらず、大人の力で食べさせるとなれば話は変わります。
重要なのは、
「食べてもらいたい」という大人の目的のために、子どもの意思や身体の状態を無視していないか。
ということです。
国の調査でも「無理に食べさせる」事例が問題に
こども家庭庁の保育所等における不適切な保育に関する調査研究では、食事場面でのさまざまな事例が整理されています。
たとえば、
- 食べたくない園児に無理に食べさせようとする
- 苦手な食材を口に押し込む
- 吐き出そうとした食べ物を口の中へ戻す
- 飲み込むよう強制する
- 吐き戻すまで嫌いな給食を食べさせる
といった行為が、不適切な保育や虐待等に関わる事例として示されています。
「給食だから食べなければいけない」
「一口だけだから」
という理由があれば、どんな方法でも許されるわけではありません。
では「一口食べてみよう」と声をかけるのもダメ?
ここは極端に考える必要はありません。
「これ、どんな味かな?」
「一口食べてみる?」
と声をかけ、子ども自身が食べてみようと思えるように働きかけることと、嫌がる子どもの口へ食べ物を押し込むことは同じではありません。
見るべきなのは、その働きかけによって子どもの選択が残されているかです。
食べてみる。
今日はやめておく。
少しだけ味を見る。
そうした子どもの反応を受け止めながら食事を進めることが重要です。
「嫌がっている」のに続ければ問題が大きくなる
食事中の子どもは、言葉だけで意思を伝えるわけではありません。
顔をそむける。
口を閉じる。
泣く。
手でスプーンを押し返す。
食べ物を吐き出す。
席を離れようとする。
こうした反応も、その子が示しているサインです。
特に乳児など、まだ十分に言葉で気持ちを伝えられない子どもでは、大人がその反応を読み取る必要があります。
それでも食べさせることだけを優先してしまえば、子どもの意思を尊重した食事介助から離れていきます。
「一口だけ」が積み重なることにも注意
一回だけ見れば強い行為ではないように感じる関わりでも、毎日のように繰り返されれば子どもへの影響は変わります。
国の虐待防止ガイドラインでも、虐待に当たるかを判断する際には、行為そのものだけでなく、行為の強度や頻度、職員の意図、子どもの状況や子どもへの影響などを考慮する考え方が示されています。
「一口くらい」
「苦手を克服してほしいだけ」
という大人側の意図だけで判断するのではなく、その関わりを子どもがどう受け止めているのかを見る必要があります。
「苦手克服」が目的なら強制していいわけではない
子どもの好き嫌いに悩む保護者や保育者は少なくありません。
だからこそ、
「少しでも食べられるようになってほしい」
と思うことは自然です。
しかし、苦手な食材を食べられるようになることと、嫌がる子どもへ強制的に食べさせることは別です。
食べ物を見る。
触る。
においを感じる。
友達が食べているところを見る。
ほんの少し味わう。
食経験は「全部食べる」だけではありません。
食べられなかった日があっても、それだけで食育が失敗したことにはなりません。
完食をゴールにすると子どものサインを見失いやすい
給食では、最初に盛り付けられた量があります。
すると、そのお皿を空にすることが「食事のゴール」のように見えることがあります。
しかし、食欲は毎日同じではありません。
体調。
活動量。
眠気。
その日の献立。
食べ慣れているかどうか。
さまざまな要因によって食べられる量は変わります。
「残っているから食べさせる」ではなく、目の前の子どもの状態を見る必要があります。
0歳児では特に「もういらない」のサインを見る
私は現在、子育て支援員として0歳児の離乳食介助にも関わっています。
0歳児は、
「今日はもうお腹いっぱいだからいりません」
とは言ってくれません。
でも、身体ではちゃんと反応します。
口を開けなくなる。
顔をそむける。
スプーンを嫌がる。
食事への集中が切れる。
眠くなる。
だから食事介助では、食べたグラム数だけを見るのではなく、子どもの反応を見ることが大切です。
「あと一口入れたい」という大人側の気持ちより、「この子は今、安全に食べられる状態か」を優先する。
これは食事介助でとても重要な視点だと感じています。
無理に食べさせることは安全面からも考える必要がある
食事の無理強いは、子どもの気持ちだけの問題ではありません。
食べ物を口に入れて安全に飲み込むためには、子ども自身が食事を受け入れられる状態であることも重要です。
泣いている。
顔をそむけている。
まだ口の中に食べ物が残っている。
そうした状態で次々に食べ物を口へ入れることは避ける必要があります。
特に乳幼児では、噛む・飲み込む機能そのものが発達途中です。
「食べさせること」を優先するのではなく、安全に飲み込めているかまで確認する必要があります。
食事介助は「口へ運ぶ仕事」ではない
食事介助という言葉から、スプーンで食べ物を口へ運ぶことを想像するかもしれません。
しかし実際には、それだけではありません。
姿勢を見る。
一口量を見る。
口の中の状態を見る。
飲み込んだか確認する。
表情を見る。
食欲を見る。
体調を見る。
そして、「もういらない」という反応も見る。
そこまで含めて食事介助です。
保育者一人の判断にしないことも重要
「この子は食べないから、もっと厳しくしたほうがいい」
「家では食べているらしいから、園でも食べさせよう」
食事の悩みがあると、一人の保育者だけで何とかしたくなることがあります。
しかし、食事はチームで考えることができます。
担任。
ほかの保育者。
栄養士。
調理員。
必要に応じて看護師などの専門職。
そして家庭。
「なぜ食べないのか」を共有することで、単純な好き嫌いではなかったことが分かる場合もあります。
食形態が合っていない。
一口量が多い。
食べ慣れていない。
体調の影響がある。
さまざまな可能性を考えることができます。
2025年10月から保育所等職員による虐待の通報制度も強化
2025年10月1日から、改正児童福祉法などにより、保育所等の職員による虐待を発見した場合の通報義務が設けられています。
対象には保育所や認定こども園なども含まれます。
つまり現在は、「園の中のことだから園内だけで処理する」という問題ではありません。
子どもの安全と権利を守るため、虐待が疑われる行為を発見したときに適切につなげる仕組みが法律上も整備されています。
どこから不適切保育になる?「一言」で線は引けない
では、どこから不適切な保育や虐待になるのでしょうか。
「一口食べてみようと言ったらアウト」
「三回言ったらアウト」
という単純な線引きではありません。
国のガイドラインでは、行為の強度や頻度、職員の意図、子どもの状況、子どもへの影響などを踏まえて判断する考え方が示されています。
だからこそ、食事場面でも重要なのは、
- 子どもが明確に嫌がっていないか
- 身体的な力を使っていないか
- 恐怖や強い圧力を与えていないか
- 拒否しているのに繰り返していないか
- 食べることを過度に強制していないか
- 子どもの身体や心理にどのような影響が出ているか
といった点を見ることです。
「食べられた」だけで成功と判断しない
強く促した結果、子どもが一口食べた。
お皿が空になった。
それだけを見ると「食べられた」と評価したくなるかもしれません。
しかし、その子が怖くて食べたのならどうでしょうか。
給食の時間そのものが嫌になったらどうでしょうか。
食事を嫌な時間として覚えてしまったらどうでしょうか。
食育の目的は、その日の給食を完食させることだけではありません。
子どもが食べ物に触れ、さまざまな味を知り、安心して食事を経験していくことも大切です。
まとめ|「食べさせる」より「食べられる環境をつくる」
有明こども園では、保育教諭による行為のひとつとして「食べ物を口に押し込む」ことが報じられています。
ただし、現時点の公表情報から、それが完食指導を目的とした行為だったと断定することはできません。
一方、国の調査研究では、嫌がる子どもへ無理に食べさせる、苦手な食材を口へ押し込む、吐き出そうとしたものを口へ戻すといった食事場面での行為が、不適切な保育や虐待等に関わる事例として示されています。
子どもへ食べ物を勧めることと、無理に食べさせることは同じではありません。
「一口食べてみる?」と働きかける。
子どもの反応を見る。
嫌がっているなら理由を考える。
必要なら量や食形態を調整する。
そして職員や家庭で共有する。
目指したいのは「大人が食べさせること」ではなく、「子どもが安心して食べられる環境をつくること」。
完食したかどうかだけでは測れないものが、子どもの食事にはあります。

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