子どもへの不適切な関わりを目撃したとき、職員はすぐに声を上げられるでしょうか。
新潟市西区の認定こども園「有明こども園」で、保育教諭による複数の園児への虐待が認定された問題。
2026年9月21日の続報では、事案の発生から発覚までに時間がかかった背景について、園を運営する法人側から新たな説明がありました。
同僚職員は、当該職員の普段の言動に対して不安や苦慮を抱えていたとされ、虐待を目撃しても「言いやすい状況ではなかった」という背景があったとの認識が示されています。
では、職員はなぜ言い出せなかったのでしょうか。
ここでは公表されている事実と、そこから先の一般的な「報告できる職場づくり」を分けながら整理します。
有明こども園で11件の虐待を認定
有明こども園では、保育教諭1人が2025年度から2026年6月までの間、複数の園児に不適切な行為をしていたとされています。
報じられている行為には、あざができるほど強く押さえつける、腕をねじる、叩く、食べ物を口に押し込むなどがありました。
2026年6月に保育教諭に関する通報が新潟市にあり、市が全職員への聞き取り調査を実施。
その結果、保育教諭による9件と、園長が適切な対応を取らなかったとする2件の計11件が虐待と認定されました。
新潟市は園側に改善勧告を通知しています。
法人側「言いやすい状況ではなかった」
今回の続報で特に注目されるのが、職員側の状況です。
園を運営する社会福祉法人「新潟市有明福祉事業協会」の会長は、発覚まで時間がかかった理由について、同僚が当該職員の普段の言動に不安や苦慮を感じていたことや、虐待を目撃しても言いやすい状況ではなかったという背景があるとの認識を示しました。
ただし、報道されている情報だけでは、
- 具体的にどのような言動に不安を感じていたのか
- 何人の職員が虐待行為を目撃していたのか
- それぞれの職員がいつ、何を把握したのか
- 職員同士の具体的な人間関係がどうだったのか
といった詳細までは分かりません。
そのため、「怖くて言えなかった」「人間関係が原因だった」などと、報じられていない理由まで断定することはできません。
現時点で確認できるのは、法人側が職員にとって言いやすい状況ではなかったことを、発覚が遅れた背景のひとつとして認識しているというところまでです。
「気づくこと」と「報告できること」は別
ここからは、この事案そのものについての断定ではなく、保育現場の安全管理として考えてみます。
不適切な関わりに気づくことと、それを組織の中で報告できることは同じではありません。
「今の関わり方は少しおかしいかもしれない」
そう感じても、相談先が分からなかったり、報告した後にどのような対応が行われるのか分からなかったりすれば、最初の一歩を踏み出しにくくなる可能性があります。
だからこそ必要なのは、職員個人の勇気だけに頼らない仕組みです。
上司だけが相談先では足りない場合もある
園では通常、主任や園長など管理職への報告ルートがあります。
しかし、子どもの安全に関わる問題では、ひとつの経路だけではなく、別の相談先を用意しておくことも重要です。
たとえば、
- 直属の上司
- 園長などの管理者
- 法人本部
- 職員向けの相談窓口
など、複数の経路があれば、一つのルートで相談しにくい場合にも別の選択肢を持つことができます。
そして、相談を受けた側が内容を確認し、必要な対応につなげられる仕組みまで作っておく必要があります。
有明こども園は職員専用相談窓口を設置へ
今回の問題を受け、有明こども園では報告体制の見直しを進めるとしています。
そのひとつが、職員専用相談窓口の設置です。
さらに、園長による1日4回の見回りも実施すると報じられています。
今回、法人側自身が「言いやすい状況ではなかった」という背景を挙げていることを考えると、相談窓口の設置は今回の問題と直結する再発防止策のひとつといえます。
ただし、窓口を設置すれば、それだけですべて解決するわけではありません。
相談窓口は「使えること」が重要
相談窓口で重要なのは、名前や制度だけではありません。
職員が、
- どんな内容を相談できるのか
- 誰が相談を受けるのか
- 相談後にどう確認されるのか
- 緊急性が高い場合にどう対応するのか
といった流れを理解している必要があります。
そして何より、実際に「ここなら相談できる」と思えることが大切です。
制度が存在することと、制度が機能することは同じではありません。
保育現場にはさまざまな職種の「目」がある
私は現在、栄養士・子育て支援員として保育現場に関わっています。
園によって職員構成は異なりますが、保育現場には保育者だけでなく、栄養士、調理員、看護師など、さまざまな立場から子どもたちを見る人がいます。
給食の時間に気づくこともあれば、遊び、着替え、午睡など別の場面で気づくこともあります。
職種や担当が違えば、見える場面も違います。
だからこそ、「自分の担当ではないから」と終わらせるのではなく、気になったことを共有できる環境は、子どもの安全を守るうえで重要です。
問題を言った人ではなく、問題そのものを見る
子どもの安全に関する報告で重要なのは、「誰が言ったのか」よりも「何が起きているのか」を確認することです。
報告された内容を確認し、必要に応じて複数の職員から話を聞き、組織として対応する。
今回の有明こども園でも、市への通報をきっかけに全職員への聞き取りが行われ、複数の虐待認定につながりました。
子ども自身が大人と同じように状況を説明したり、助けを求めたりすることが難しい年齢だからこそ、周囲の大人が気づいたことを共有できる仕組みが必要です。
まとめ
有明こども園の虐待問題では、法人側が、発覚まで時間がかかった背景として、同僚職員が当該職員の普段の言動に不安や苦慮を抱えていたことや、虐待を目撃しても「言いやすい状況ではなかった」ことを挙げています。
一方で、具体的にどのような事情によって個々の職員が報告できなかったのかまでは公表されていません。
その部分を推測で埋めるのではなく、今回明らかになった事実から考えたいのは、子どもの安全を職員個人の「言える・言えない」に委ねないことです。
有明こども園では今後、職員専用相談窓口の設置や園長による1日4回の見回りなど、報告体制を見直すとしています。
気づいた人が声を上げられる。
声が上がったら、組織が確認する。
そして必要な対応につなげる。
子どもを守るためには、その一連の流れが実際に機能する職場環境を作ることが重要です。

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