保育園やこども園の給食中に起こる窒息事故。
事故を防ぐために「食べ物を小さく切る」「保育者がよく見る」といった対策を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、乳幼児の窒息事故を防ぐために必要なのは、それだけではありません。
食材を選ぶ。
子どもの発達に合った食形態にする。
家庭での食事状況を確認する。
給食室と保育側で情報を共有する。
安全な姿勢で食べる。
一口量や飲み込みを確認する。
そして万が一窒息が起きたとき、すぐに対応する。
給食中の安全は、このすべてがつながって初めて成立します。
2023年に愛媛県新居浜市の認可保育所で起きたリンゴによる重大事故の検証報告書からも、ひとつの問題ではなく複数の要因を重ねて考える重要性が見えてきます。
- 新居浜の事故では複数の問題が重なったと検証
- ①食材そのものの窒息リスクを確認する
- ②大きさだけでなく固さや形も確認する
- ③月齢だけではなく実際の発達を見る
- ④家庭での食事状況を具体的に確認する
- ⑤保護者から得た情報を給食室まで届ける
- ⑥食事をするときの姿勢を整える
- ⑦一口量と飲み込みを確認する
- ⑧泣いている・眠そうなときは食事を中断する
- ⑨完食を優先しない
- ⑩食事介助する職員だけに安全を任せない
- ⑪窒息が起きたときの対応を全員が確認しておく
- ⑫マニュアルは「作って終わり」にしない
- ⑬緊急時対応は訓練しておく
- 私は「作るところから飲み込むところまで」が給食だと考える
- 園全体で確認したい窒息事故防止チェック
- まとめ|窒息事故は「気をつける」だけでは防げない
新居浜の事故では複数の問題が重なったと検証
2023年5月16日、新居浜市の認可保育所で、当時生後8か月だった男児が離乳食を食べている最中に窒息状態となりました。
新居浜市の事故検証委員会は、刻んだ生のリンゴが気道を閉塞した可能性が高いと判断しています。
しかし、検証報告書が指摘したのはリンゴだけではありません。
離乳食の提供方法。
生のリンゴによる誤嚥リスクへの認識。
調理方法の標準化。
保護者から得た情報の共有。
慣らし保育中だった男児への対応。
事故発生時の対応。
職員研修やマニュアル。
複数の問題が重なった結果、事故につながったと検証されています。
窒息事故を防ぐためには、「担当者がもっと注意する」という対策だけではなく、園全体の仕組みを確認する必要があります。
①食材そのものの窒息リスクを確認する
まず確認したいのが、提供する食材そのものです。
乳幼児は咀嚼・嚥下機能がまだ発達途中です。
大人なら問題なく食べられる身近な食材でも、乳幼児には窒息につながる場合があります。
こども家庭庁は、すべての食材が誤嚥につながる可能性があることを前提として、食材の特徴や子どもの発達に応じた提供を求めています。
特に過去に重大事故が発生している食材については、現在の国の資料や施設の基準を確認することが重要です。
「昔から園で出しているから」
「家庭でもよく食べる食材だから」
という理由だけで安全と判断しないことが大切です。
②大きさだけでなく固さや形も確認する
窒息対策というと、「小さく切る」ことに意識が向きがちです。
しかし、小さくすれば必ず安全になるわけではありません。
新居浜の事故では、生後8か月の男児に刻んだ生のリンゴが提供されていました。
事故検証委員会は、この刻んだ生のリンゴが気道を閉塞した可能性が高いとしています。
食形態を考えるときには、
- 大きさ
- 固さ
- 形
- 口の中で処理しやすいか
- その子の発達に合っているか
などを総合的に確認する必要があります。
「刻んだから安全」という考え方だけでは、十分な窒息対策にはなりません。
③月齢だけではなく実際の発達を見る
離乳食には月齢ごとの目安があります。
しかし、同じ月齢ならすべての子どもが同じように食べられるわけではありません。
離乳食を始めた時期や食経験、舌やあごの動き、飲み込み方などには個人差があります。
そのため、
「8か月だからこの食形態」
「1歳になったから普通食に近づける」
と月齢だけで機械的に決めるのではなく、実際の食べる様子を確認することが重要です。
食形態を一段階進めるときにも、家庭と園の両方での食事状況を確認しながら判断する必要があります。
④家庭での食事状況を具体的に確認する
乳幼児の給食では、家庭でどのような食事をしているかという情報も重要です。
ここで注意したいのが、「食べたことがあります」という確認だけで終わらせないことです。
たとえばリンゴなら、
加熱して食べたのか。
すりおろして食べたのか。
生で食べたのか。
どの程度の固さや大きさだったのか。
同じ「リンゴを食べた経験」でも内容は大きく異なります。
家庭での食経験を園の食形態へ反映するためには、食材名だけではなく提供方法まで確認する視点が必要です。
⑤保護者から得た情報を給食室まで届ける
家庭から情報を聞き取っていても、その情報が実際に調理する人へ届かなければ、安全な給食にはつながりません。
新居浜市の事故検証報告書では、保護者から聞き取った家庭での離乳食の状況が、調理現場に十分伝わっていなかったことが指摘されています。
保護者。
担任。
栄養士。
調理員。
園長などの管理者。
それぞれが持っている情報を必要な職員へ共有できる仕組みが必要です。
「担任は知っていた」「給食室では聞いていなかった」という状態を作らないことが重要です。
⑥食事をするときの姿勢を整える
食事中の姿勢も、誤嚥事故を防ぐうえで重要です。
こども家庭庁の食事提供のポイントでは、子どもが正しい姿勢で食べられるよう環境を整えることが示されています。
特に離乳中期以降では、椅子の高さなどを調整し、安定した姿勢で食べられるよう工夫することが大切です。
身体が安定しない状態では、口やあごを使って食べることにも影響します。
食材だけを見るのではなく、椅子・机・身体の向きなど食事環境も確認します。
⑦一口量と飲み込みを確認する
適切な食形態でも、一度に口へ入れる量が多すぎれば安全に食べにくくなります。
食事介助では、子どもが口を開けたからといって次々に食べ物を運ぶのではなく、一口ごとに食べる様子を見ることが重要です。
口の中に食べ物が残っていないか。
飲み込めているか。
呼吸や表情に変化がないか。
次の一口を受け入れられる状態か。
こうした様子を確認しながら進めます。
食べるペースは大人側が作るのではなく、子どもの食べる力に合わせる必要があります。
⑧泣いている・眠そうなときは食事を中断する
食事中の子どもの状態にも注意が必要です。
こども家庭庁の誤嚥事故防止資料では、食事中に眠くなる、怒る、泣く場合には食事を中断するよう示されています。
新居浜の事故でも、事故検証委員会は、男児が泣いて息を吸った瞬間に刻んだ生のリンゴが気道を閉塞した可能性が高いとしています。
「あと少しだから」
「もう一口だけ」
と食事を続けるのではなく、そのとき安全に食べられる状態なのかを優先します。
⑨完食を優先しない
こども家庭庁の食事提供のポイントでは、無理に完食させようとしたり、食事を急がせたりすることは、誤嚥につながるおそれがあるとされています。
給食では「できれば全部食べてほしい」という気持ちが生まれることもあるでしょう。
しかし、乳幼児の食事では完食より安全が優先です。
子どもが口を閉じる。
顔をそむける。
泣く。
眠そうにする。
口の中に食べ物をため込む。
こうした様子があるときに、無理に食べ進めないことが重要です。
⑩食事介助する職員だけに安全を任せない
給食中に窒息事故が起きると、事故直前に食事介助をしていた職員へ注目が集まりやすくなります。
しかし、安全な給食を作るためには多くの職員が関わっています。
献立を作る人。
調理する人。
食形態を確認する人。
家庭から情報を聞き取る人。
実際に食事を介助する人。
職員を配置する管理者。
一人の注意力だけに依存するのではなく、複数の段階で危険を止められる仕組みを作る必要があります。
⑪窒息が起きたときの対応を全員が確認しておく
どれだけ予防策を重ねても、事故の可能性を完全にゼロにすることはできません。
だからこそ、「起こさないための対策」と同時に「起きたときの対応」を準備しておく必要があります。
新居浜市の事故検証報告書では、事故発生時の対応についても複数の課題が指摘されました。
119番通報時に詰まった物の大きさや形状について情報を伝えていなかったこと。
通信指令員からの指示が、現場にいる他の保育士へ直接聞こえていなかったこと。
事故現場の状況が通信指令員へ正確に伝わっていなかったこと。
そして窒息時の対応に関する知識にも課題があったとされています。
マニュアルを置いているだけではなく、職員が実際に動ける状態になっているかを確認することが重要です。
⑫マニュアルは「作って終わり」にしない
新居浜市の事故検証では、各種マニュアルやガイドラインが全職員へ伝わっているかを確認するチェック機能がなかったことも問題点として挙げられています。
マニュアルが棚に置かれている。
研修資料を一度配った。
それだけでは、実際の事故防止にはつながりません。
新人職員も理解しているか。
調理員にも共有されているか。
パート職員や応援に入る職員も対応できるか。
実際の給食場面で内容が守られているか。
定期的に確認する仕組みが必要です。
⑬緊急時対応は訓練しておく
窒息事故は突然起こります。
その瞬間に初めてマニュアルを開いても、すぐに対応できるとは限りません。
誰が119番通報をするのか。
誰が子どもの対応をするのか。
誰が他の子どもたちを安全な場所へ移動させるのか。
救急隊へ何を伝えるのか。
こうした役割を普段から確認しておくことが重要です。
2026年1月には、こども家庭庁も教育・保育施設向けに食品等の誤嚥による窒息事故防止について改めて通知し、窒息事故発生時の対応フローを公表しています。
事故が起きてから考えるのではなく、平常時から準備しておく必要があります。
私は「作るところから飲み込むところまで」が給食だと考える
私は栄養士として給食に関わる一方、子育て支援員として0歳児の離乳食介助にも関わっています。
給食室側にいるときには、食材、加熱、食形態、衛生管理などを考えます。
一方、実際に0歳児の食事介助をするときには、一口量や口の動き、飲み込み、姿勢、表情、その日の体調まで見ます。
この両方を経験すると、給食の安全は給食室だけでも保育室だけでも完成しないことを強く感じます。
安全な食形態で作る。
正しく情報を伝える。
目の前の子どもに合わせて介助する。
飲み込むまで見守る。
異変があればすぐに対応する。
「作るところから、子どもが安全に飲み込むところまで」が乳幼児の給食です。
園全体で確認したい窒息事故防止チェック
- 窒息リスクのある食材について最新の国の資料を確認しているか
- 子どもの発達に合った固さ・大きさ・形になっているか
- 月齢だけで食形態を決めていないか
- 家庭での食事状況を具体的に確認しているか
- 家庭から得た情報が給食室まで共有されているか
- 食形態の変更を誰がどのように判断するか決まっているか
- 安定した姿勢で食べられる環境になっているか
- 一口量と飲み込みを確認しているか
- 泣く・眠い・怒るなどの場合に無理に食事を続けていないか
- 完食や食事時間を安全より優先していないか
- 窒息時の対応を職員が理解しているか
- 119番通報時の役割分担が決まっているか
- マニュアルが全職員へ共有されているか
- 定期的に訓練や研修を行っているか
まとめ|窒息事故は「気をつける」だけでは防げない
給食中の窒息事故を防ぐためには、担当職員が注意するだけでは十分ではありません。
食材。
食形態。
子どもの発達。
家庭との情報共有。
給食室と保育側の連携。
姿勢。
一口量。
見守り。
緊急時対応。
職員研修。
複数の安全策を重ねることで、一つの見落としが重大事故につながることを防ぎます。
新居浜市の事故検証委員会も、生の刻みリンゴだけを問題にしたのではなく、離乳食の提供方法や情報共有、職員の知識、事故発生時の対応など複数の問題が重なった結果、事故につながったとしています。
「担当者が気をつける」ではなく、園として事故を防げる仕組みになっているか。
子どもたちの食事を安全なものにするために、そこまで確認することが重要です。

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