2026年9月、鳥取県倉吉市の飲食店でウェルシュ菌による集団食中毒が発生しました。
9月19日に提供された料理を食べた122人のうち19人が腹痛や下痢などを発症し、検便を受けた患者6人からウェルシュ菌が検出されています。
今回のニュースで気になるのが、ウェルシュ菌の「熱に強い」という特徴です。
「100℃で加熱しても死なないって本当?」
「沸騰させた料理でも食中毒になるの?」
そう疑問に思った人もいるのではないでしょうか。
実は、ウェルシュ菌の熱への強さを理解するには、通常の菌体と「芽胞(がほう)」を分けて考えることが重要です。
今回は、ウェルシュ菌が加熱後にも生き残る仕組みと、食中毒を防ぐために必要な温度管理について解説します。
倉吉市では19人がウェルシュ菌食中毒を発症
山陰放送の2026年9月23日付報道によると、倉吉市西倉吉町の飲食店で提供された料理を食べた122人のうち、10~30代の男女19人が腹痛や下痢などを発症しました。
患者6人の便からウェルシュ菌が検出され、倉吉保健所は飲食店の料理を原因とする食中毒と判断しています。
飲食店には9月22日から25日までの4日間、営業停止処分が行われました。
ただし、具体的な原因料理や、どの調理工程で菌が増殖したのかについては、現時点で確認できる情報から断定できません。
ここからは、ウェルシュ菌の一般的な性質について見ていきます。
ウェルシュ菌とは?土壌や動物の腸管にもいる細菌
ウェルシュ菌は、人や動物の腸管、土壌、下水など、自然界に広く存在する細菌です。
特徴のひとつは、酸素の少ない環境で増殖しやすいことです。
そのため、大量に調理した食品の内部など、酸素が少なくなりやすい場所で増殖することがあります。
さらに、ウェルシュ菌は環境が悪くなると「芽胞」と呼ばれる耐久性の高い状態になることができます。
この芽胞が、通常の加熱調理だけでは食中毒を防ぎきれない理由のひとつです。
芽胞とは?菌が生き残るための耐久性の高い状態
芽胞とは、ウェルシュ菌など一部の細菌が形成する、熱や乾燥などに強い構造です。
農林水産省は、芽胞を菌が厳しい環境を生き残るためにつくる、殻のような構造として説明しています。
菌にとって増殖しにくい環境になると芽胞を形成し、条件がよくなると通常の菌体に戻って増殖することがあります。
つまり、芽胞は単なる「死んだ菌」ではありません。
増殖を休止した状態で生き残り、条件が整うと再び増殖できるという特徴があります。
100℃でも死なないのは「芽胞」
ここで、今回のタイトルにある疑問を整理しましょう。
「ウェルシュ菌は100℃でも死なない」という説明は、正確には、ウェルシュ菌が形成する芽胞の耐熱性を指しています。
通常の菌体と芽胞では、熱への強さが異なります。
通常の菌体は十分な加熱によって死滅しますが、芽胞は一般的な加熱調理でも生き残る場合があります。
農林水産省によると、ウェルシュ菌の芽胞は100℃で1時間加熱しても耐えられるほど熱に強い性質があります。
静岡県の食品衛生情報でも、100℃で1~6時間加熱しても生存する芽胞を形成すると説明されています。
ただし、すべてのウェルシュ菌が、どのような加熱条件でも必ず生き残るという意味ではありません。
重要なのは、家庭で行う通常の加熱だけでは、耐熱性の芽胞を完全に除去できるとは限らないということです。
加熱後に芽胞から菌が増えることがある
ウェルシュ菌食中毒で注意したいのは、加熱している最中だけではありません。
加熱によって通常の菌体が死滅しても、耐熱性の芽胞が生き残る場合があります。
その後、料理がゆっくり冷めて、菌の増殖に適した温度になると、芽胞から通常の菌体へ戻り、増殖する可能性があります。
特に大量の料理を大きな鍋に入れたまま置いておくと、中心部まで冷めるのに時間がかかります。
その間に、ウェルシュ菌が増えやすい温度帯に長くとどまってしまうことがあるのです。
ウェルシュ菌は何℃で増える?
農林水産省によると、ウェルシュ菌が増殖できる温度帯は、およそ12~50℃とされています。
つまり、加熱した料理が冷めていく途中で、この温度帯を長時間通過すると、菌が増殖する可能性があります。
「まだ温かいから大丈夫」
「完全に冷めていないから菌は増えない」
とは限りません。
大切なのは、菌が増殖しやすい温度帯に食品を長く置かないことです。
大きな鍋の中は酸素が少なくなりやすい
ウェルシュ菌には、もうひとつ重要な特徴があります。
それは、酸素の少ない環境で増殖しやすいことです。
農林水産省は、食品の中心部では酸素が少なくなり、ウェルシュ菌にとって増殖しやすい環境になると説明しています。
大きな鍋で大量の料理を作ると、中心部が冷めにくいだけでなく、酸素が少ない状態にもなりやすくなります。
そのため、大量調理では「十分に加熱したか」だけでなく、加熱後の冷却や保存方法まで考える必要があります。
ウェルシュ菌は体の中で毒素を作る
ウェルシュ菌による食中毒は、食品中で大量に増殖した菌が体内へ入り、腸管内で毒素を作ることで起こります。
この毒素は「エンテロトキシン」と呼ばれます。
ウェルシュ菌が腸管内で芽胞を形成する際に毒素が産生され、その作用によって下痢や腹痛などの症状が現れます。
ここは、食品中にあらかじめ作られた毒素を食べるタイプの食中毒とは区別して考える必要があります。
ウェルシュ菌食中毒では、食品中で菌が増殖することを防ぐのが重要な対策になります。
もう一度沸騰させれば安全になる?
「芽胞が残っていても、食べる前にもう一度沸騰させれば大丈夫なのでは?」と思うかもしれません。
再加熱は、増殖した通常の菌体を減らすために重要です。
農林水産省も、保存した煮込み料理を食べる際には、鍋底までよくかき混ぜ、中心部まで十分に再加熱するよう呼びかけています。
ただし、芽胞は熱に強いため、再加熱したからといって必ず完全に死滅するわけではありません。
また、室温で長時間放置するなど、不適切に保存した食品が、再加熱によって必ず安全になるとはいえません。
再加熱に頼るのではなく、調理後に菌を増やさないことが重要です。
芽胞を完全に死滅させることより「増やさない」が重要
ウェルシュ菌は自然界に広く存在しており、食品への混入を完全になくすことは難しい細菌です。
また、芽胞は通常の加熱調理では生き残る場合があります。
そのため、ウェルシュ菌食中毒の予防では、調理後に菌が増殖する条件をつくらないことが重要です。
農林水産省は、調理した食品をなるべく早く食べ、保存する場合には小分けして速やかに冷却するよう呼びかけています。
冷却後は、適切に冷蔵・冷凍保存することも大切です。
家庭でカレーや煮物を作ったときの注意点
ウェルシュ菌食中毒は、飲食店や給食施設だけの問題ではありません。
家庭でカレーやシチュー、煮物などを作ったときにも注意が必要です。
特に、翌日も食べるために大量に作る場合は、調理後の保存方法を考えておきましょう。
- 調理した料理は、なるべく早く食べる
- 保存する場合は、浅い容器などに小分けする
- 長時間室温で放置せず、速やかに冷却する
- 冷却後は適切に冷蔵・冷凍する
- 食べる際には中心部まで十分に再加熱する
大きな鍋に入れたまま、ひと晩室温で放置するような保存方法は避けましょう。
倉吉市の食中毒も冷却不足が原因だったの?
ここまでウェルシュ菌の芽胞や、加熱後の冷却について説明してきました。
しかし、今回の倉吉市の食中毒で、冷却不足や室温放置が原因だったと確認されているわけではありません。
現時点で確認できる報道では、具体的な原因料理や詳しい汚染・増殖の経緯までは明らかになっていません。
ウェルシュ菌の一般的な特徴と、今回の飲食店で実際に起きたことは分けて考える必要があります。
まとめ|100℃でも生き残る芽胞があるからこそ冷却が重要
ウェルシュ菌は、熱に強い「芽胞」を形成する細菌です。
通常の菌体は十分な加熱によって死滅しますが、芽胞は100℃で加熱しても生き残る場合があります。
そして、料理がゆっくり冷めるなど、増殖に適した条件になると、芽胞から通常の菌体へ戻って増殖する可能性があります。
ウェルシュ菌食中毒を防ぐために重要なのは、次の3つです。
- 調理した食品は、なるべく早く食べる
- 保存する場合は、小分けして速やかに冷却する
- 冷却後は適切な温度で保存し、食べる際には十分に再加熱する
「100℃で加熱したから絶対に安全」ではなく、「加熱した後に菌を増やさない」ことまでが食中毒予防です。
倉吉市の食中毒をきっかけに、家庭でも飲食店でも、調理後の冷却と保存を改めて確認したいですね。

コメント