食品メーカーの「官能検査」と味覚検定は何が違う?元品質管理目線で解説

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Kevin’s English Room(KER)が挑戦した「味覚検定3級」。

実際にジュースやクッキー、基本五味の溶液などを口にして評価する内容を見て、

「これって食品メーカーの官能検査に似てない?」

と思った人もいるかもしれません。

確かに、どちらも人が実際に食品などを口にして、

  • 香り
  • 違い

などを判断する点では似ています。

しかし、味覚検定と食品の官能検査では、そもそも「何を評価したいのか」が違います。

私は以前、飲料メーカーの品質管理業務に携わり、官能による確認も経験してきました。

その経験からも、「人が飲んで確認する=おいしいかどうかを決める作業」と思われがちですが、実際の品質管理では必ずしもそうではありません。

この記事では、

  • 官能検査・官能評価とは何か
  • 味覚検定とは何が違うのか
  • 分析型と嗜好型はどう違うのか
  • なぜ機械だけではなく人が確認するのか

を、元品質管理の視点も交えながら解説します。


そもそも「官能検査」とは?

食品分野では、人間の感覚を使って食品を評価する方法があります。

これを「官能評価」と呼びます。

使う感覚は味覚だけではありません。

  • 味覚
  • 嗅覚
  • 視覚
  • 触覚
  • 聴覚

など、人間の感覚そのものを使って食品の特徴を確認します。

食品で分かりやすいのは、

  • 甘い・苦い
  • 香りが強い・弱い
  • 色が濃い・薄い
  • 硬い・やわらかい
  • サクサクしている

といった評価です。

つまり官能評価とは、単なる「食べて感想を言うこと」ではありません。

人間の感覚器官を使って食品の特性を評価する方法です。


官能評価には「分析型」と「嗜好型」がある

ここは官能評価を理解するうえで、とても重要なポイントです。

官能評価には、大きく分けて、

  • 分析型官能評価
  • 嗜好型官能評価

があります。

同じものを食べても、この2つでは質問そのものが違います。

種類知りたいこと質問のイメージ
分析型食品にどんな特徴・違いがあるかどちらが苦い?香りは強い?違いを識別できる?
嗜好型消費者がどう感じるかどちらが好き?おいしい?また買いたい?

「違いが分かる」と「どちらが好き」は別問題なのです。


分析型官能評価とは?

分析型官能評価では、食品そのものの特性や、試料同士の違いを評価します。

例えば2種類の飲料があったとして、

  • Aのほうが甘味が強いか
  • Bのほうが香りが強いか
  • AとBに違いがあると識別できるか
  • 苦味の強さはどの程度か

などを評価します。

ここで大切なのは、

「私はAのほうが好き」ではない

ということです。

分析型では、自分の好みを答えるのではなく、対象となる食品の特徴をできるだけ客観的に評価します。

そのため分析型パネルでは、評価する能力を確認したり、目的に応じて訓練を行ったりすることがあります。


嗜好型官能評価とは?

一方の嗜好型官能評価では、

「消費者がどう感じるか」

を調べます。

例えば、

  • どちらがおいしい?
  • どちらが好き?
  • この香りは好み?
  • この食感をどう感じる?

といった評価です。

こちらでは「好み」という主観そのものが重要なデータになります。

そのため、一般消費者の嗜好を調べたいのであれば、ターゲットとなる消費者を適切に選ぶ必要があります。

農研機構でも、訓練されたパネルを使う分析型官能評価と、消費者パネルを使う嗜好型官能評価を区別しています。


「違いが分かる人=消費者の代表」ではない

これは食品開発を考えると面白いところです。

例えば訓練された人が、

「試作品BはAより苦味がわずかに強い」

と正確に識別できたとします。

しかし、それだけでは、

「消費者はBのほうを好きになる」

とは言えません。

逆に、分析型では「違いがある」と判断されても、一般消費者にとってはその違いが気にならないことも考えられます。

食品の違いを測ることと、人の好みを測ることでは目的が違う。

官能評価では、この区別がとても重要です。


では味覚検定は何を評価している?

KERが挑戦した「味覚検定3級」では、

  • 味の識別力
  • 味の記憶力
  • 味の感知力

という3種類の能力をテストします。

ここで評価対象になっているのは、

食品そのものではなく「受検者の味覚能力」

です。

ここが食品メーカーなどの官能評価との大きな違いです。

官能評価と味覚検定の違いを比較

比較項目味覚検定3級食品の官能評価
主な目的受検者の味覚能力を測る食品の特性や嗜好などを評価する
評価対象受検者食品・飲料など
見るもの識別力・記憶力・感知力味・香り・食感・色・好みなど
結果受検者の合否食品の特徴・差・嗜好などのデータ
目的味覚能力の検定品質管理・研究・製品開発など目的によって異なる

どちらも人間の感覚を利用する点では似ています。

しかし、

味覚検定は「人を測る」、官能評価は「食品などを評価する」

と整理すると、違いが分かりやすいでしょう。


品質管理で行う官能確認は「おいしい?」だけではない

私自身、飲料メーカーの品質管理に携わっていた経験があります。

品質管理の官能確認というと、

「みんなで飲んで、おいしいか確認しているの?」

と思われるかもしれません。

しかし品質管理で重要になるのは、単純な好き嫌いとは別の視点です。

例えば、

  • いつもの製品と違うところはないか
  • 通常とは異なる香りがないか
  • 違和感のある風味がないか
  • 見た目などに異常がないか

といった確認です。

「私はこの味が好き」という話ではなく、

「本来あるべき状態と比べて異常がないか」

を見るという考え方です。


官能検査は「人間が測定器になる」ようなもの?

官能評価を説明するときに、人間の感覚をセンサーとして使うという表現があります。

実際、食品では機械による分析だけでは表現しにくい感覚があります。

例えば、

  • 香ばしい
  • 青臭い
  • 粉っぽい
  • 後味が残る
  • サクサクしている

といった人が感じる特徴です。

もちろん現在は、味覚センサーやさまざまな分析機器を使って食品を数値化する研究・技術もあります。

しかし食品を最終的に口にするのは人です。

そのため、人間が実際にどう感じるのかを調べる官能評価には、機器分析とは異なる役割があります。


ただし人間だから「ばらつく」

人間の感覚を使う官能評価には、大きな難しさもあります。

人は機械ではありません。

同じ人でも、

  • 体調
  • 疲労
  • 直前に食べたもの
  • 試料の温度
  • 評価する順番
  • 周囲の環境

などによって感じ方が変わる可能性があります。

さらに複数人で評価すれば、人による違いもあります。

そのため官能評価では、

「人が食べて判断したから正しい」ではなく、できるだけ条件を整えて評価すること

が重要になります。


試料の温度や順番まで大事

官能評価では、評価する食品そのものだけでなく、試験条件も重要です。

例えば、

  • Aだけ冷えていてBがぬるい
  • Aだけ量が多い
  • 片方の商品名だけ知っている
  • 強い味の商品を先に何種類も食べている

といった状態では、評価に影響する可能性があります。

また、同じ刺激を続けることで感覚疲労が起こることもあります。

そのため、目的に応じて試料の条件や提示方法、休憩などを考える必要があります。

農研機構でも、試料の温度や形状、食べ方、評価環境などが人の感覚に影響すると説明しています。


官能検査だけで食品の安全性を判断するわけではない

ここも大切なポイントです。

「味やにおいに問題がなければ安全」

とは限りません。

食品の品質管理では、目的に応じて、

  • 微生物検査
  • 理化学検査
  • 製造工程の管理
  • 官能による確認

など、さまざまな方法を組み合わせます。

食中毒の原因となる微生物などは、人が味やにおいだけで安全性を判断できるものではありません。

官能検査は品質を確認する方法のひとつであって、「人が飲んで安全確認する検査」ではありません。

ここは食品衛生の面でも誤解しないようにしたいところです。


味覚検定が官能評価の「練習」になるとは限らない

では、味覚検定に合格すれば食品メーカーの官能評価でも優秀なのでしょうか。

これも単純には言えません。

味覚検定で基本五味を感知できることは、味に対する能力のひとつです。

しかし実際の官能評価では、目的に応じて、

  • 特定の商品について特徴を理解する
  • 評価用語をそろえる
  • 一定の方法で繰り返し評価する
  • 他のパネルと評価基準を合わせる

などが必要になることがあります。

つまり、

「味覚が鋭い人を集めれば官能評価は完成」ではない

ということです。


逆に官能検査経験者なら味覚検定に受かる?

これも保証はできません。

日常的に特定の商品を評価している人が、その商品について細かな違いを識別できるようになることはあります。

しかし味覚検定では、ミックスジュース、クッキー、基本五味の溶液など別の課題が出されます。

「仕事で官能検査をしている=どんな味でも必ず分かる」

というものではありません。

ここが、人間の感覚を使う検査の面白さでもあります。


官能検査と味覚検定についてよくある質問

官能検査とは味見のこと?

食品を口にする評価もありますが、官能評価では味覚だけでなく嗅覚・視覚・触覚・聴覚など人の感覚を利用します。単なる「味見」より広い概念です。

官能検査はおいしいかどうかを調べるの?

目的によります。嗜好型では好き嫌いなどを調べますが、分析型では食品の特徴や試料間の違いなどを評価します。

味覚検定と一番違うところは?

味覚検定では受検者の識別力・記憶力・感知力を測ります。一方、食品の官能評価では食品の特徴や消費者の嗜好などを目的に応じて評価します。

味覚検定に合格すれば官能検査が得意?

必ずしもそうとは限りません。実際の官能評価では、目的に応じたパネルの選択や訓練、評価条件の統一なども重要です。

官能検査だけで食品が安全か分かる?

分かりません。食品の安全性は官能だけで判断できるものではなく、微生物検査や工程管理など目的に応じた方法が必要です。


まとめ|味覚検定は「人」、官能評価は「食品など」を評価する

味覚検定と食品の官能評価は、どちらも人間の感覚を利用するという点ではよく似ています。

しかし目的を比べると、大きな違いがあります。

味覚検定3級では、

  • 識別力
  • 記憶力
  • 感知力

といった受検者自身の味覚能力を測ります。

一方の官能評価では、

  • 食品にどんな特徴があるか
  • 試料同士に違いがあるか
  • 消費者はどちらを好むか

などを、目的に応じて調べます。

元品質管理の立場から見ると、官能による確認は「食べて感想を言う作業」ではありません。

人間の感覚だからこそ分かる情報を、できるだけ一定の条件で拾い上げるための方法です。

そして人間の感覚には、機械とは違って体調や環境による変動もあります。

人だから分かることがある。一方、人だからこそ条件を整える必要がある。

そこが食品の官能評価の奥深いところです。

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